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【絵具】朱色とは?色の作り方と意味・イメージを徹底紹介!【日本画】

この記事で分かること
  • 朱色とは赤と黄色を混ぜた色!
  • 朱色は高貴さと神聖さの象徴!
  • 朱色の絵具の原料は水銀!

こんにちは、日本画家の深町聡美です。

「しゅいろ」ってオレンジ?赤?
何でこんな色があるの?



朱色…
赤ともオレンジともつかない、
なんとも言えない色ですよね。


「お絵描きセットに入っているけど
使いどころがないな~」



と放置してしまっていませんか?



実は意外な成り立ちや、驚きの原料で
出来ている色なのです!


朱色とはどんな色?

mafuttoによるPixabayからの画像
三属性による表示記号6.0R 5.5/13.5
慣用色名朱色
絵具の原料辰砂、硫化水銀
系統色名等「わずかに黄みのさえた赤」
「黄みのさえた黄赤」



朱色は赤とオレンジの間の色です。

「わずかに黄みのさえた赤」
「黄みのさえた黄赤」とも表現されます。



朱色が使われる最も身近な場面といえば
神社の鳥居ですね。


豪華絢爛な赤っぽいオレンジ色に塗られている
のを見たことがあるでしょう。


それが朱色です。



また印鑑の朱肉、漆器にも朱色が使われています。


ヨーロッパでは「ヴァーミリオン」と呼ばれる赤が
近い色ですね。


朱色の絵の具の原料は?

朱色の原料「辰砂」の原石
AC写真

朱色ってどんな材料で出来ているの?



朱色の絵具の原料は硫化水銀です。


古代は朱砂、辰砂などの天然石を細かくして
絵具として用いていました。



辰砂はパワーストーンショップなどでも
扱われている天然鉱石なのですが、
毒性が強いことで規制の方向に向かっています。



そのため
「古代から使われた、本物の朱色」
は入手が難しくなってきているのです。



現在販売されている学生用絵具の朱色は
無害な別の物質で作られている
ので過度に
心配する必要はありませんよ。



ただ、日本画絵具やプロ用絵具の一部では
現在でも硫化水銀を素にした朱色があります。
(例:本朱)


Photo by Elena Mozhvilo on Unsplash




天然辰砂以外の材料としては
9世紀に錬金術で発見された「銀朱」があります。



これは水銀と硫黄を人工的に合成して作った
硫化水銀となっています。





ところで、今ではどんな色も
「朱色=6.0R 5.5/13.5」
のように「決まった色」となっていますよね。


ですが、朱色の元々の原料は天然鉱物。


自然物なので、採取する地域によって色調は様々
でした。



他の岩石との比率や、温度によって
黄色っぽくなったり、黒っぽくなったり、

「100%決まった朱色」はなかったのです。



まとめ
  • 朱色の原料は硫化水銀(辰砂)
  • 9世紀に発明された人工硫化水銀による朱色は「銀朱」と呼ばれる
  • 天然石が原料なので決まった朱色ではなかった




朱色に似た臙脂色、茜色との違いは?

Photo by Alina Sofia on Unsplash

えんじ色やあかね色とはどう違うの?



水銀を使った絵具は怖いと思うかもしれませんが

他にも比較的安全な鉱物を原料にした赤い絵具も
あるんです。



それが「丹(に・たん)」。
こちらは酸化した鉛を用いた絵具です。




また、赤系の和色で良く聞くのは
「臙脂色(えんじいろ)」
「茜色(あかねいろ)」
でしょう。



実はこちらは朱色や丹と異なり
染料が元になっている絵具です。



つまり壁画に塗るような塗料ではなく
染め物由来の赤色ということですね。



どれも日本の伝統的な赤色ですが
少しずつ由来や色が違うので覚えておくと
いいですよ。


まとめ
  • 朱色に似た日本の色には「丹(に・たん)」「臙脂色(えんじ)」「茜色(あかね)」がある。
    西洋の色ではヴァーミリオンが近い


朱色の歴史

pixabay

朱色の始まりや歴史ってどんな感じなんだろう?



朱色の始まりは中国だと言われています。


天然に産出する朱砂の中では
中国の辰州産の朱色が特に有名でした。


なので天然の朱色の絵具を「辰砂」
呼ぶようになったのです。



そして古代中国、殷(紀元前17世紀~)
の時代から寺院や絵画の着色
使われていたことが確認されています。


それだけ古くから中国では好んで使われて
いたんですね。



現在は「代表的な赤色」といえば、
日の丸のような赤色が思い浮かびますが、
昔の中国では朱色こそが「赤の中の赤色」
と考えられていました。



例えば陰陽五行思想に基づいた「四神」
南を司る「朱雀」はという漢字が入っています。


これは朱色こそが赤色と考えられていた
ためだと言われています。




中国で始まり、そして重要視されてきた朱色。


朱色は日本にも大きな影響を与えました。




Thanapat PirmpholによるPixabayからの画像


日本ではどのように活用されてきたの?



中国からやってきた朱色と、
その高貴なイメージは日本にも広がりました。



例えば宮城の正門である朱雀門
朱色に塗られていたと言われていますし、

今でも馴染み深い神社の鳥居
朱色ですよね。




このように日本でも朱色は尊い色として
用いられるようになりました。



また、日本でも古くから辰砂は採掘されており
手に入りやすい絵具だったと言えるでしょう。



他にも平安時代の傑作
「地獄草子」の炎も数種類の朱色が使われている等
様々な絵画で用いられていました。





そして、現在では馴染みが薄くなった朱色ですが、
明治の小学生向け色彩教育本では
基本的の色の一つとして紹介されています。
(榧木寛則「小学色図解」(1876年))




さらに、1977年に20歳前後の女性を対象にした
調査では全体の17%が好きな色に
選んでいました



朱色は、日本でも古くから非常に好まれた
色だったのです。



まとめ
  • 朱色の始まりは中国の辰州の砂
  • 中国や日本で高貴な色として親しまれた



朱色のイメージと意味

Thanapat PirmpholによるPixabayからの画像



朱色にはどんなイメージや意味があるの?



朱色の主なイメージ・意味は
「権力、高貴、お守り、太陽」です。

古代中国では朱色は権力の象徴でした。


この頃は名家の家の門だけが、
朱色に塗ることを許されていました。

つまり地位の高い役職に就ける人
=朱色の門の家に住んでいた
のです。




また、この高官たちは朱輪という
朱色の車にも乗っていました。



これらのことから、中国では
朱色は尊い色、権力を象徴する色として
苗字にもなっています。



pixabay


日本でも朱雀門や神社の鳥居などに
権力やパワーの象徴として用いられて
いますよね。



「魏志倭人伝」では男子が朱で刺青をして
魔除け
としたと記述があります。


またサメ避けのお守りとして使われていました。




以上から朱色は赤色と同様
火、太陽を想像させる、力を与える色だと
考えられていたことが分かります。



そして朱色の特に珍重された効力として
防腐剤の役割があげられます。





硫化水銀の辰砂は、火傷や皮膚の化膿に
効果があり
、赤チン(消毒液)として
使われました。


また不眠やめまいにも用いられたと言います。


他にもエジプトでは防腐剤としてミイラに
塗られたり、日本でも古墳から身分が高い人物と
共に採掘されることがありました。



朱色は血液の連想と科学的な効能がリンクして
高貴さ、守護などのイメージが形作られていった
と言えるでしょう。



まとめ
  • 朱色は中国では権力の象徴として尊ばれた
  • 朱色は赤と同じくパワーやエネルギーも象徴していた


アクリルガッシュでの朱色の作り方

tristanlai1220によるPixabayからの画像

朱色のことは分かったけど、絵具ではどうやって作るの?



朱色は赤とオレンジの中間の色。


だから絵具で朱色を作る時は
赤とオレンジを混ぜるようにしましょう。


オレンジがない時は、黄色を少しだけ混ぜます。



今回はアクリルガッシュを使って
4種類の方法で朱色を作りました。


©DARENIHO
  1. ジャパネスクカラー真朱
  2. パーマネントレッド+パーマネントレモン
  3. パーマネントレッド+パーマネントイエロー
  4. パーマネントレッド+蛍光オレンジ



ジャパネスクカラー真朱はアクリルガッシュの
日本色シリーズです。

これ一本で真朱色となりますが、
鳥居の朱色より白っぽい、ピンク系の色です。

朱色特有の黄色っぽさは少ないですね。




混色仕立ての色
©DARENIHO


②パーマネントレッド
+パーマネントレモン


こちらはおよそ
レッド:レモン
=2:1

で混色しています。


1:1ではただのオレンジになってしまう
ので、注意しましょうね。



レモンが白っぽいためか、
全体的にマットで明度が高く、
彩度は少し低めです。


コバルトブルーを一滴足すことで
少し深みのある色になりました。


混色仕立てでは赤身が強いが…
©DARENIHO




③パーマネントレッド
+パーマネントイエロー



こちらが4種の中では
神社の朱色に最も近い色になりました。


こちらも2:1の割合で混ぜています。


しかし乾燥すると白くなってしまうので、
もう少し彩度を上げたい所です。



パーマネントレッド+蛍光オレンジ

彩度を下げないために蛍光色を
混ぜてみました。

今度は1:1程度の割合です。


彩度は上がりましたが、朱色の
黄みが減ってしまいました。


パーマネントレモンを混ぜて
黄みを補ってあげると良いでしょう。


塗り重ねることではっきりした
朱色になるはずです。



まとめ
  • 絵具で朱色を作る時は、赤と黄色を混ぜよう!
    赤を多めにするのがポイント!



日本画での朱色の作り方・使い方

画像:GAHAG


日本画の朱は、ほかの絵具とは使い方が違うんだって?
どうやって使うの?



さて、日本画における朱とは
赤色の顔料のことを指します。



日本画で朱という場合は硫化水銀から
作られた朱色の絵具を言うことが多いですね。


他の多くの天然岩絵具と同じく、
混合比や温度調節によって色味が変わり

黄口朱、赤口朱、鎌倉朱、鶏冠朱、黒朱

などがあります。




硫黄(硫化)成分ゆえに銀箔や銀泥を
黒変させてしまいます
ので、

併用するときは銀箔に硫化止めを
施しておきましょう。


その一方で、鉛系顔料を変色させるとも
言われていますが、

こちらは本当かどうか明らかではない
とのことです……



朱を作る手順①膠と混ぜる!

©DARENIHO
必要な物
  • 絵皿


以上の必要な物が揃ったら、
まずは朱を絵皿に出して膠を少量加えます。

そして、指でよく練りましょう




朱を作る手順②水を加える

©DARENIHO




水を加えて指で良く練り溶かします。

その後しばらく放置して、
上澄み液と沈殿物に分離させましょう。


沈殿した物が朱となります。


※上澄みは「朱の黄目」「丹」になる。


朱を作る手順③朱の二度溶きをする

©DARENIHO



朱は非常に比重が重たい絵具。
(天然緑青3.7~4.0に対し8.2)


そのため膠が絵具粒に絡みづらく、
剥離の原因になることも…



なので、朱を解く場合は
「二度溶き」でしっかり膠分を付けることが
が推奨されています。



ということで、
沈殿した朱に膠を一滴加え、少量の水を加えて
指で練り溶きます。




これで朱の絵具の完成です!



はじめにアルコールで練ってから
膠を加えると混ざりやすくなる。



【必見】日本画における朱の注意点!



このように日本画では朱、つまり
硫化した水銀を手でこねこねして
溶かす
わけです。



そして、硫化水銀は超、毒です。


そのため、

  • 朱のついた手で顔を触る
  • 口に入れる
  • 水に流す
  • 燃やす

ことは絶対にしないでください。



残った絵具は布でぬぐい、
燃えないゴミに出しましょう。


「るつぼの中に入れ
釉薬を以て密閉して焼けば」大丈夫!

という記述があっても、絶対に焼いては
いけません。


(「日本画 画材と技法の秘伝集」p59より)



【必読】朱を使う時にしてはいけない事!
  • 口に入れること
  • 火にかける、焼くこと
  • 水に流すこと

上記のことは決してしないこと!
死にます。



まとめー【絵具】朱色とは?色の作り方と意味・イメージを徹底紹介!【日本画】

Thanapat PirmpholによるPixabayからの画像



最後までお読み頂きありがとうございます。


以上が朱色の意味、イメージ、歴史、
そして絵具での作り方でした。



朱色は硫化水銀でできていて、
中国で採取された辰砂が主な原料でした。



日本に広がってからも、
高貴、権力、太陽などのイメージを持ち、

鳥居や工芸品、絵画に用いられて
きたんですね。


皆さんも歴史を感じながら、朱色の絵具を
使ってみて下さいね!



日本画の「天然の朱」を使う時には
子供だけで作業しないようご注意下さいね!



狩野派の朱色の使い方ー丹青指南現代語訳

狩野永徳唐獅子図
狩野永徳 – [1], パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=4210868による




この現代語訳は筆者が趣味で行いました。

大正時代の文章の専門家ではないので
間違い等あることを承知の上で
ご覧下さい。

↓原文はこちらでお読み頂けます。
国立国会図書館「丹青指南」





電子書籍&
ペーパーバック発売中!


原文が本で読めるようになりました!


一、朱

この絵具は水銀を蒸し焼きして作った物で、
使わない時に粉状に擦ったり、
溶いて置いたりするのは良くない。



使う時に絵具皿に膠を溶かして
その中に入れて、指で練擦しながら
水で溶いて使うのが良い。




このようにして練った朱は
色が濃い部分は沈殿し、
黄色みを帯びた液が上澄みになる。


その上澄み液を「朱の黄目」と呼んで、
他の絵具皿に取り分けて所持し、

これを胡粉に混ぜて朱肉色として
人物一般の肌色に使う。

この練り朱が自然に乾いた時は、
再び練り直して使う。


といっても、これを度々すると
最終的に色相を損なうので捨てるようにする。



参考文献はこちら!

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