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【日本画】銀箔を焼く方法―硫黄で硫化させて変色させよう

こんにちは、日本画家の深町聡美です。


前回の記事では、作品に箔を貼り、
きらびやに魅せる方法を学びました。

箔の貼り方はこちらの記事で!

今回は、銀箔を焼いて色を変える方法

についてご紹介いたします!



今では貴重な材料の簡単な入手方法や、
初めてさんも安心な詳しい手順、
そして注意点まで、細かく解説しますので、
ぜひ最後までご覧下さい。


↑絵以外でも、額縁のアレンジなど
アイディア次第で活用の幅が広がります!





実際にやってみた記事はこちら!



銀箔を焼くとは?―実は硫黄で硫化させている!

額に貼った箔を焼いています

上の写真をご覧下さい。
どこに箔が使われているか分かりますか?


そうです、額のキラキラした部分が
箔を貼った部分です。


茶色や、白、黒など、様々な色が見えますね。




「「焼く」と言う位だし、きっと炙って
焦げ目を付けているのでは?」

と予想した方もいるのではないでしょうか?


ですが、銀箔を「焼く」とは言いますが、
バーナーで炙って茶色くしているわけでは
ありません。




銀に硫黄を付着させることで色を変化させる
化学反応を用いています。

シルバーアクセサリーも、放置しておくと
黒っぽくくすんできますよね。


銀に硫黄を付着させて硫化させると
徐々に銀から茶色、
そして黒へと色が変わります。


これを日本画では、「焼く」と言うのです。

まとめ

「銀箔を焼く」とは、銀を硫黄成分で硫化させ、変色させることを言う。

銀箔を焼くときの注意点―硫化水素に注意!



銀箔を焼くときには硫黄を使います。


硫黄を加熱すると
空気中の水素と反応して硫化水素
空気中の酸素と反応して二酸化硫黄(亜硫酸ガス)
という毒ガスが発生します。



温泉の匂いも硫化水素によるものです。



重篤な障害が残る可能性がありますので、
必ず換気の良い部屋か
屋外で行うようにして下さい。





硫黄は理科実験でも使われますが
生徒が病院に搬送される事故が
相次いでいます。

中学の理科実験、体調不良で搬送相次ぐ 有毒の気体吸い



筆者も知らずに狭い室内でおこない、
気分が悪くなったことがあります。






それでは、注意点をしっかり守った上で
銀箔を焼くときに必要な材料を揃えて
いきましょう!


銀箔を焼く(硫化させる)方法

銀箔を焼くときに必要な物

硫黄の原石
必要な道具

・硫黄成分を含む物
(硫黄、硫黄粉末、六一〇ハップ、黒化液など)

・アイロン

・紙や布



紙や布は、新聞紙でもコピー用紙でも
何でも構いません。
要は、アイロンがけの当て布です。
紙の場合は何枚か重ねるのがオススメです。

かならず必要になるのが

硫黄成分を含んだ物です。



硫黄でも良いですし、
金工・ハンドメイドアクセサリーなどに使う
黒化液、いぶし液でもOKです。


また、図工や美術の授業で使う
「さびカラー」という商品でもOKです。




この、硫黄成分を含む物は大きく分けて
「固形」「液体」が存在し、
それぞれで、焼き方が若干異なります。



「固形」の例は硫黄・硫黄粉末。
「液体」はいぶし液・六一〇ハップ等入浴剤です。



この記事では「固形」と「液体」に分けて
焼き方を説明しますので、用意した硫黄が
どちらに含まれるか把握しておきましょう。


その他の硫黄成分を含む商品や、
それらの詳しい入手方法は
次章の「銀箔を焼くときの、硫黄の入手方法」
で、ご紹介いたしますね。


固形の硫黄で銀箔を焼く方法

初心者向け度   ★★☆☆☆
色のコントロール ★★★★★

有毒感      ★★★★★



やり方自体はとても簡単!

作品の銀箔部分の上に硫黄をふりかけて、
上に当て布か紙を置いて、
アイロンをかけるだけです!



アイロンの設定は、初心者は高温がおすすめです。

変色が早くなるため、
「失敗したかも?」
という不安がなくなりますからね。

ただ、高温で放置はNG!
硫黄が溶けて、銀箔に固着してしまいます。

温泉の匂いがしたら、様子を見てみましょう。



スピード重視ではなく、
狙いの色がある場合は少しずつ時間をかけて
熱するのが良いですね。



というのも銀箔の色の変化は
温度によって変わる
からです。


「日本画 画材と技法の秘伝集」では
温度が高いと青黒くなり、
温度が低いと赤黒くなる。

とされています。

分かりやすく、変色の様子を書いて下さっている
サイトもありました。

銀箔の硫化による色の変化は、銀→金→茶→赤→紫→青→黒と言われます。

銀箔と硫黄の日本画的反応実験。




液体のいぶし液などで銀箔を焼く方法

「銀黒」を使ったシルバアーアクセサリーの変色例
by ネイティブジャパニーズ/NATIVE JAPANESE

初心者向け度   ★★★★★
色のコントロール ★
★☆☆☆
有毒感      ★☆☆☆☆



硫黄液を塗りつける方法です。

上記の参考動画では「銀黒」という常温で
薄めずに使う液を使用していますが、

銀箔を焼いて、茶色や青などの微妙な色合いを
楽しむ場合はオススメしません。



なぜなら、動画の通り
真っ黒になってしまうからです。



液体の硫黄成分で焼く場合は
薄めて使うタイプのいぶし液か、
後述の温泉の素を使うのがベターですね。


筆者が使っているのは下の
NITTOのいぶし液です。



使い方は商品によって異なりますが、
NITTOいぶし液や温泉の素の場合


①適切な量を70~80℃程度のお湯に入れ、
かき混ぜる。

②筆で銀箔に塗る。

③好みの色になったところで
水を付けた筆で拭く。




と言う流れになります。


②~③の間で時間がかかるので
当て布・紙をしたうえでアイロンを
かけるのも良いでしょう。

硫化反応が早くなります。




液体であることを応用して、
原液で銀箔に模様を描き、
模様のみ黒く変色させる技法もあります。



銀箔を真っ黒に硫化させる方法



真っ黒にするには、前述の「銀黒」
使うのが一番早そうですね。



ですが、よく洗わないと他の絵具にも
変化が及びそうで少々怖くもありますね。

金属や鉱物系の絵具を使うときは
注意をした方が良いかもしれません。




伝統的な黒化方法としては

①硫黄の粉末をふるいにかけて箔の上にかける。

②むらなく、銀箔の上が一面黄色になるように
 薄く盛る。 

③そのまま一晩おく。

④銀箔に付着している硫黄をはたきおとす。

⑤箔が剥がれないよう気を付けながら
 軽く水洗いする。



というものもあります。

個人的にはこちらの方が、
自然で落ち着いた黒色になる印象です。

応用―一部だけ銀箔を硫化(変色)させる方法

「銀黒」や「いぶし液」等の液体の
硫黄を使う場合、液体であることを活かして

原液で銀箔に模様を描き、
模様のみ黒く変色させることもできます。




逆に、硫化が起こらないように
ドーサやアクリル画用のワニス(バーニッシュ)
をひけば、そこだけ変色させず、
模様のみ銀色のままにすることができます。




日本画のドーサとは?

まとめ

模様を黒くしたいなら

・銀箔に液体系硫黄で模様を描いて銀箔を焼く。

模様を銀色にするなら

・銀箔にドーサやワニスで模様を描いて
銀箔を焼く。



銀箔を焼くときの、硫黄の入手方法



あまり馴染みがない硫黄ですが
意外にも様々な場所で入手することが
できます。


ここからは、オススメの銀箔焼き用
硫黄グッズを、販売場所と共に紹介します!



硫黄の液体―銀箔焼き初心者向け!

  • 六一〇ハップ(ムトウハップ)・湯の素

硫黄が含まれた温泉を再現するための
入浴剤です。

以前は銀箔焼きと言えば六一〇ハップ!

というくらいメジャーでした。

しかし、製造販売が中止されてからは
「湯の素」を使う方が多いようです。





使い方は、
お湯に適量溶かして筆で箔に塗布し、
好みの時間放置するだけ。



溶かした量や放置時間によって
色が変わります!
好みの配合を探してみましょう!!


※体感ですが硫黄による変色よりも
黄色みがかった感じになります。

また、急速に黒変しますので
色のコントロールは難しめです。


しかし、変化が分かりやすい上、
待ち時間も少なく、
最も初心者にオススメな素材です!

  • 銀細工のいぶし液




シルバークレイや鋳金などの
銀細工の通販ショップなどで販売されて
います。


種類は少ないですが、Amazonでも
取り扱いがあります。 


こちらは
指輪などのシルバーアクセサリーをひたし
「いぶし銀」にする商品です!


使い方は六一〇ハップや湯の素と同じく
適量をお湯に入れて筆で塗布するだけ。


〇度のお湯〇CCに、〇適……
と使い方が詳細に書かれている事が多いので
湯の素よりも使いやすいですね。
こちらも初心者にオススメです!

硫黄の粉末―銀箔焼きに慣れた人向け!

箔焼きに慣れた人には、
変化がゆっくりで色の調整をしやすい
硫黄粉末がベストです!!




固形硫黄しかない場合はカッターなどで
削っても良いですよ!


硫黄粉末は大きく、口がきちんと閉まる瓶で
保管しましょう。



湿度に弱かったり、何かと反応して
毒ガスが出たりするとのこと……


筆者はビニール袋のまま輪ゴムで
口を縛っていたので、瓶に移し換えました。


  • 薬局

粉末の硫黄は、薬局で安価に
販売されているようです。

しかし硫黄を用いた自殺が相次いだため
販売を自粛している店舗もありそうですね。


取り扱いは店舗によって異なりますので
お店に連絡して聞いてみるといいでしょう。


  • 鉱石ショップ・科学館など

鉱石、原石として販売されている硫黄です。
鉱石専門店のほか、科学館などの
お土産コーナー
で販売されていることも
あります。



科学館では比較的安価に
柱状の塊で買う事ができますので、
それをカッターややすりで削って
粉末状にするといいです。



一方、鉱物店では鑑賞用に色形の良い物や
希少な硫黄が高価に売られています。

もしこのような場所で購入するのであれば
サザレ状(石粒)の硫黄が比較的
安価になります。

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  • 温泉のお土産コーナー
引用:燃える大阿蘇 阿蘇山中岳火山口/*BUCHA*さん

 



一番のねらい目です。

火山近くの温泉地では、
お土産として硫黄が売られていることが
ありますね。



特に阿蘇山では害虫除けとして
硫黄粉末が大量に販売されています。



小さな塊では数百円から入手できますので
たくさん必要な方も、少しでいい方も
一度見てみるのは如何でしょうか?







これらの液体硫黄と固形の硫黄のほか
「硫黄シート」なるものも存在しています。

こちらは、あらかじめ紙に硫黄が付着して
いて、すぐに箔を焼ける優れものですが
京都の一部の画材屋でしか取り扱いが
ないと言われています。




(※本に「京都の一部のみ販売」と
書かれていました。

今は通販くらいあると思って信じて
いませんでしたが、

硫黄シートを使った
やり方を紹介されている方が
本当に京都の方だったので、
入手はかなり困難なようですね)

【補足】銀箔を変色させて幻想的な色を作る方法/近澤優@アーティスト(絵画)

銀箔を焼いたら、焼き止め(硫化止め)をしよう!

銀箔は空気の中の硫黄分でも変色して
しまいます!


なので、真っ黒にならないために
硫化止めの処理が必要になります!


大切な作品を、可能な限り良い状態で
保つために、必ずこの処置をしておき
ましょう!





まず、必要なものから紹介します!

いずれか一つでOK!
  • ドーサ
  • 卵白
  • アクリル絵画の仕上げ用ワニス
  • 大根おろし
  • フィキサチーフ
  • セルロイドの透明な物をアセトン、または酢酸アミルに薄く溶解したもの

ドーサってなんぞや?




上記の必要素材は
「日本画 画材と技法の秘伝集」
を参考にさせていただきました。




この中で現実的なのは、

  • ドーサ
  • アクリル絵画の仕上げ用ワニスをひく
  • フィキサチーフ

でしょうか笑


どれも、表面を覆って空気に
触れなくするためのものです。



ドーサもワニスも表面を覆えるように
二、三回に分けてしっかり塗ると良いですね。


最初は箔が水気を弾きますが、
重ねていくうちにしっかりとカバーされます。



界面活性剤を、少量いれてみると
弾かなくなる
そうです。

こちらはやったことがないので
実験などされた方はぜひ教えて下さい!





銀箔の焼き方 まとめ

以上、箔の焼き方でした!


「思ったより簡単に出来そう!」

と思って頂ければ幸いです。




銀箔の変色は非常に奥が深く
コントロールができないものですが、

何度か実験してみて、お気に入りの
色を探してみて下さいね!




いろいろなやり方を紹介しましたが、

  • 薬局などで硫黄製品を買う!
  • 銀箔に乗せる!
  • アイロンをかける!

が最短のやり方だと思いますので、
硫黄をGETして挑戦してみましょう!


実際にやってみた記事はこちら!

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