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狩野派流!日本画で使うドーサ液の引き方/塗り方を解説!

こんにちは、深町聡美です。

才能あふれる狩野派の画家たちも、
努力なしに何でも描けたという訳ではありません。
もちろん想像のつかないような努力、
そして練習をしていたに違いありません。

そこで何百年も伝統を受け継ぎ続けた
狩野派の絵師たちは、

一体どんな練習をしてきたのでしょうか!?




ということは、残念ながら丹青指南のこの章には
書かれていませんが、どんなスケッチブックを使って
練習していたのかは、はっきりと書かれていました!



今回は狩野派で代々使われてきた練習用スケッチブックの
作り方と、前回の記事で作ったドーサを紙に塗る(引く)
方法をご紹介いたします!


狩野派伝統の日本画技術書「丹青指南」の現代語訳も
今回で第6回目です。
よければ以前の記事も、以下からご覧下さい!

丹青指南」の現代語訳メニューはこちらをタップ!

➡狩野派による日本画解説書「丹青指南」を現代語訳

ドーサ紙で作る狩野派のスケッチブックとは?

狩野派では従来から、絵画の練習用の用紙として
スケッチブックを自作していたそうです。


一体どういう物だったかというと、
美濃紙や半紙のたぐいにドーサを塗って乾かして、
それを縫い合わせていた物
だそうです。


それを常備して、いつも、どこでも
練習できるようにしていたんですね。



作者の守静氏はこれを「少し幼稚な技術」
と言っていますが、反面、
「その技術を知らない人々には大いに有益」
とも語っています。

江戸時代は、全てを手作りしないと
良いスケッチブックが手に入らなかった
のかもしれませんね。


しかし、現代では様々な道具が安価に手に入りますので
紙は美濃紙、表紙は製本
なんてことも手作りで出来てしまいます。





普通のスケッチブックは百均で手に入りますが
上等な紙質で枚数が多い物はなかなかありません。

そして、この記事を読んでいるということは
物づくりに自信があるのではないかと思います。


せっかくなので、狩野派の技術を使って
自分だけの素敵なスケッチブックを作って
楽しみながら画力を上げてみるのは如何でしょうか?




ドーサの塗り方とドーサ引きに必要な道具を解説!

それではさっそく、
ドーサを紙に塗ってみましょう!

ドーサを作っていない方は、前回の記事に、
狩野派のドーサの作り方を掲載していますので、
参考にどうぞ。



狩野派のドーサ液の作り方はこちら!

【日本画】狩野派のドーサ液の作り方とは?効果はあるの?【丹青指南現代語訳】

初心者向けのドーサ液の作り方はこちら!

【初心者向け】日本画のドーサ液の引き方、作り方をイラスト付きで解説!

ドーサ紙作りに必要な道具を説明します!

必要な物

・ドーサ

・木の棒(少し太め)

・木の板(長辺は60 ㎝以上、短辺は42 ~45 ㎝以上

・紙(例:美濃紙、半紙など)

・刷毛(はけ。できれば粘刷毛が良い)

木の板は何でも代用可能!



この中でハードルが高いのは木の板ですよね。

この板は、ドーサを塗った紙を乾かして置く為の
板になりますので、
作りたいスケッチブックのサイズや部屋の広さで、
板の面積も変えてしまってOKです。




サイズが合えば、百均の板でも良いですし、
筆者はドーサ引きした和紙は古毛布の上で
乾かしていますので、それでも問題ありません。


新聞紙でも大丈夫そうです。


木の棒は100均の麺棒で!



木の板に続いて、木の棒も必要になります。

こちらは、ドーサの水分を含んでしわしわになった
紙を伸ばす際に必要になります。


丹青指南によると、太目の木製の棒が良い
ということですので、ダイソーなどの百均にある
麺棒が安価で丁度いいです。



ただし安価ゆえに化学物質や、木のヤニ、
また汚れが付いている場合がありますので、
使用前には水拭きをして、紙に汚れがつかないよう
気を付けて使用してください。







紙は薄美濃紙がおすすめ!


次に紙ですが、丹青指南では美濃紙という紙が
勧められています。
美濃和紙という名称でも販売されています。

日本画や書道、また掛け軸などの表装や、
絵画修復などで使われる、薄くて丈夫な和紙です。

紙を厚くして丈夫にする「裏打ち」という工程で、
よく用いられています。


そのため、日本画や書道を扱う画材屋さんや、
通販でも多く取り扱われているので、入手は
比較的簡単です。


スケッチブックにするのであれば、厚さは
薄いもので十分です。

およそ書道の半紙程の薄さでありながら、
大変丈夫なので、作業中に破れてしまう
という事はありません。


ということで、和紙は美濃和紙の薄い物を
お勧めします。

↑こちらは既にドーサが引かれている物です。
買ってすぐに、にじまず使えます。

刷毛はドーサ専用の物を購入すべき!

最後に、刷毛(はけ)について説明します。



あまり日本画に馴染みが無い方は、刷毛と言われて、
ペンキ用の刷毛や

女性ですと化粧用の刷毛を思い浮かべる方も
多いのではないでしょうか?



刷毛とひとことで言っても、ペンキ用や化粧用があるように
日本画で使う刷毛にも種類があります。

(日本画と言うより、巻物や掛け軸、屏風などに仕立てる
ための表具用が正しいですね)


詳細は、こちらの表具師さんのHPをご覧下さい。
和装乃蔵 wasounokura  
書画保存修復・表装材料( 表具材料 )商

様々な種類の刷毛がある事がわかります。


丹青指南では、この表具用の粘刷毛という刷毛が
適していると記載があります。

しかし粘刷毛について調べても詳細不明であること、
また丹青指南の解説書でもある



でも特に触れられていないことから、
現状では普通のドーサ引き用専用の刷毛がベストだと
考えます。




そうなんです!ドーサにはドーサ専用の刷毛があります。


主にドーサの原料であるミョウバンの性質。
つまり膠に反応して化学反応を起こすことや、
酸性であることなどが、
専用の刷毛を使わなくてはならない理由です。


詳しい理由は別の記事にゆずるとして、
とにかく、日本画をする際にはドーサ専用の刷毛
を準備しておいて下さい。





「まだ日本画をやるつもりはないよ!」

「ちょっと作ってみたいだけだよ!」

という場合は、百均やホームセンターで
大きく、出来るだけ柔らかい刷毛を探してみて
下さい。

美濃紙がいくら丈夫であっても、固い刷毛では
繊維が傷み、絵具や墨で上手く描けなくなる
場合があります。


固い毛、細い刷毛で、何度も何度も紙を撫でると
よりダメージが大きくなってしまいます。



本格的な日本画ではなく、ワークショップなどで
沢山道具が必要になる時などに代用してみて下さい。

ドーサ紙の作り方とスケッチブックの作り方を解説!

素材も道具も用意ができましたね!
今からは具体的な手順の解説に入ります。



丹青指南によると、この章には解説の図が
付けられている
とのことでしたが、

長い時間の中で紛失したのか、
それとも図の用意が間に合わなかったのか

筆者の持っている国会図書館蔵版のコピーにも

新装版 日本画画材と技法の秘伝集
狩野派絵師から現代画家までに学ぶ [ 小川幸治 ]
の方でも、原本に付いていなかったようです。


ですので、ここでは上記の本を参考にしながら
筆者の想像で図を補足しておきました。



もしわかりづらい!と思うところがあれば、ぜひ

新装版 日本画画材と技法の秘伝集
狩野派絵師から現代画家までに学ぶ [ 小川幸治 ]
を購入して確認しながら作ってみて下さい!




①ドーサを塗っていない美濃紙を一枚とって、
木の板や毛布など、乾燥させられる場所に寄せて置きます。


②下図のように、刷毛を用いてドーサを塗ります。

この時むらが出来ないように気を付けてください。


ドーサの分量は紙にしっかり染み込む位の量にします。
表面にうっすら付着する程度では不十分です。

一度塗るだけで、しっかり浸透するように多めに
刷毛に含ませましょう。



また、乾く前に同じところに重ね塗りをしないよう、
まっすぐに、ゆっくり刷毛を引くようにして
塗っていきます。



②次に、先ほどドーサを塗った紙から少し離して
他の紙を木板に乗せます。

これにもまた前のようにドーサを塗っていきましょう。




③紙が敷板の全面を塞いでしまったら、
これで作業を止め、紙を板から剥がしていきます。


剥がした紙は下の図のように、麻縄にかけて
吊り下げて、並べて掛けます。
こうして、つるした紙を同時に乾かすと
効率が良くなります。



⑤乾いた紙は、一枚ずつ取り外し重ねます。
紙はドーサで縮んで同じ大きさにはならないので、
気にせず重ねましょう。



⑥大きさを整えます。
紙を重ねたままで木の巻棒に固く巻き付け、
数日間置いておくと、自然に元のように戻ります。


もしすぐ必要なのであれば、巻いたままの状態で
小槌を使って軽く叩くと形が整います。

ただし槌で打つ時の力が少し強すぎると、
ドーサが飛んで、利きが悪くなるので注意してください!

こうして出来上がったドーサ紙を糸で閉じて、
狩野派の練習用スケッチブックの完成です!

こちらはイメージですが、

工夫次第ではこのようなオシャレで実用的な
練習用スケッチブックが作れますね!





それでは最後に、恒例の現代語訳を載せていきます。
解説を参考にして、出来る限り自分で原本を読んで
見てくださいね!

現代語訳:ドーサ紙の作り方 (礬水紙製法)


ちゃんど原文を読むにはどうすればいいの?


そんな時は国立国会図書館のサイトでチェック!

全文を無料で読むことが出来ます!


また、正確な訳や詳しい図解が欲しい!
という方は画材と技法の秘伝集がおススメです!


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原文が本で読めるようになりました!

ドーサ紙の作り方(礬水紙製法)




一、従来狩野家においては、門弟たちが絵画の練習の
用紙として美濃紙、半紙のたぐいにドーサを塗って乾かし、
それをそろえて縫い合わせたものを常備し使っていた。


それは少し幼稚な技術ではあるが、その技術を知らない人々には
大いに有益なことであるので、その方法を示しておく。



まずドーサを塗るのに使う敷板について示す。

この敷板の大きさは決まっていないが、はじめに木質で
長辺は60 ㎝以上、短辺は42 ~45 ㎝以上の板を作る。

そして生紙を一枚とって敷板のどこか一角の方によせて置き、
刷毛を用いてドーサを塗布する。
(この刷毛には表具師の用いる粘刷毛が適している)


次に、ドーサを塗布した紙の一角にならって、
その二方を少しばかり離して他の紙を板に重ねる。

これにもまた前のようにドーサを塗っていく。

こうして順に紙を重ねつつ、
第一図(添付なし)のようドーサを塗布する。


そしてその紙が敷板の一方に近づいて来たら、
ほかの場所に移し、そこでもまた前のように
その一角から少し二方を離して、
順番に紙を重ねながらドーサを塗布していく。



その紙が敷板の全面を塞いでしまったら
これで作業を止め、使った敷板は紙をはがすのに
都合がいい場所に立てかけておく。


はがした紙は第二図(添付なし)のように、
上に張った麻縄にかけて吊り下げて置き、
その隣へとなりへと並べて掛け、つるした紙を同時に乾かすのが良い。




以上のようにして乾いた紙は、
一枚ずつ取り外し表裏を決めて重ねる。

といっても、紙はドーサのために皺が寄って縮んでしまい、
均等な大きさではない。

そこで、それを重ねたままで巻棒に
(この巻棒は木質で少し太いのがいい)
固く巻き付け、数日間置いておく。


すると自然に元のように戻る。
もしすぐ必要なのであれば、巻いたままの状態で小槌を使って
軽く叩けばいい。



ただし槌で打つ時の力が少し強すぎると、
ドーサの利きを減らしてしまうので注意する事。

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➡狩野派による日本画解説書「丹青指南」を現代語訳

日本画の技法書「丹青指南」に関する参考サイトなど

・国立国会図書館デジタルコレクション
無料で閲覧だけでなくダウンロードもできます!



現代版丹青指南!日本画のバイブルです。

・CiNii図書
日本の図書館からページのコピー(複写)を購入できます。



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