8/1 新刊『日本画の絵具と色彩』発売されました!

日本画を木や板に直接描いてはいけない!下地を必ず用意しよう!

この記事でわかること
  • 木の板に日本画を直接描くのはNG!
    ジェッソやドーサ、白土を下地にして描こう!
  • 狩野派が使っていた最強のヤニ止めは金箔!


こんにちは、日本画家の深町聡美です。


木の板に日本画を描くってワクワクしますよね!


でも、ちょっと待ってください。


実は木からヤニが出て、作品が茶色くなってしまうことがあるんです!



でも安心して下さい。

下地を使えば問題解決!


今回の記事では、
日本画の古い技法書『丹青指南』から、
金箔を使ったユニークな下地技を紹介します!




もちろんイマドキの下地もしっかりあります。

ぜひ最後までお読み頂ければ嬉しいです!



日本画を木に描く前に読んで!


さまざまな素材を下地にした実験が掲載されています!
ボンドやジェッソなどの
身近な画材で実験しているので
木に描く前にぜひチェックしてみて下さい!



日本画を木板に描いてはいけない理由は「ヤニがでるから」!


結論から言うと、
木や板に直接日本画を描くのは
おススメ出来ません!

なんで!?神社の絵だって板に描いてあるじゃない!


と思うかもしれませんね。


ですが、神社の社殿や絵馬の日本画は、
きちんとした「ある方法」で描かれています!


この方法を知らないと
絵が汚れてしまうリスクがあります!

絵が汚れてしまうってどういうこと?

木からヤニが出て絵が茶色くなってしまうんです!



木製パネルに紙を張った後しばらくして剥がすと紙の裏が茶色くなっている事がありますよね。


これは木のヤニによるものです。


通常は和紙に裏打ちをしたり、
厚い紙を張ることでヤニを防ぎます。


ですが、気に直接絵を描くと、
ヤニを防ぐものがありません。


ということで、
木に直接絵を描くと、ヤニで茶色くなる
可能性がUPしてしまいます!


頑張って描いたところがすぐに汚れちゃうと悔しいね!

それを防ぐ方法を解説します!


日本画で木板に描くには「金箔を下地にせよ!」と言われています!

木に絵を描く時の下地は複数あります!


木に絵を描く時に使われる下地は以下の通り!

現代では色々な素材が使われています。

木に描く時の下地
  • ドーサを引く(日本画)
  • うるし(日本画)
  • 白土はくど(日本画)
  • 白緑びゃくろく(日本画)
  • 白亜地/アブソルバンジェッソ(油絵)
  • ジェッソ/炭酸カルシウム(アクリル画)
  • モデリングペースト(アクリル画)

特にジェッソモデリングペーストは、
簡単に使い始められます!



一見アクリル絵具限定の手法のように見えますが、現代では日本画で木に直接描く時にも使われています。



特に油絵やアクリル絵具で木板に描く時には
アブソルバンジェッソが人気です。

  1. 板にアブソルバンジェッソを塗る
  2. 乾かす
  3. 表面に紙やすりをかけて滑らかにする

以上の手順を使えば、滑らかで均一な
画面作りができるようになるんですよ!


もちろん普通のジェッソでも構いません。
日本画の場合、胡粉ジェッソとも相性がよさそうですね!




木板に日本画を描く時にも、ジェッソを下地に使う人がいらっしゃるようです。




ただ、通常はドーサや白土を下地にすることが多いですね。



筆者が石や木に絵を描いていた時は、ドーサを下地に使っていました。
ヤニ止めだけでなく、木や石の吸水を防ぐ効果があるので必ず使うべきです!


筆者が神社の木製の絵馬を復元させた時は
下地として白土を使っていました。


アクリルの上に日本画を塗るのはOKですが、逆に日本画の上にアクリルを塗るのはNGです。
日本画絵具とアクリル絵具の収縮率が違うので、絵具が剥離してボロボロになってしまいます!

また、伝統的な日本画の質感や特性は変わる可能性があります。

日本画においては、伝統的な素材と技法が
その独特な表現を生み出していますので、
ジェッソの使用は慎重に検討しましょう!

参考:日本画絵具とアクリル絵具の併用に関する研究



しかし、実はドーサや白土だけでは不十分!
という資料もあります。

それが狩野派の書籍である「丹青指南」

そこでヤニ止めとして使われていたのは、なんと金箔でした!


古くから残っている神社仏閣などの古い建築物には金箔がヤニ止めとして使われていたのです!




ここからは金箔をヤニ止めに使う、
具体的な手順を見ていきましょう!


金箔を下地にして日本画を木板に描く手順を解説!

昔の下地づくりなんだね。
必要な道具は今でも揃えられるの?

現代でも画材店などで入手可能です!



伝統的な、金箔による下地作りは
これらの道があればできちゃいます!

必要な物


普通のお店では買いにくい物もありますが、
画材店に行けば簡単に揃えられます!

もし近くに大きい画材屋さんがない時は
楽天やAmazonで購入しましょう。


【日本画】金箔を使った伝統的手法で木板にマスキングしよう!

まずは金箔を貼りたくない場所をマスキングしましょう!


まずは、要らない部分に金箔が付かないように
マスキングをしましょう!

マスキングの手順
  1. 美濃紙にドーサを引く
  2. マスキングしない場所を切り抜く
  3. 薄い布海苔で貼る



ますは、美濃紙にドーサを引きましょう!
ドーサの引き方は以下の記事を参考にしてください。



ドーサ液の引き方はこちらをチェック!




ドーサが紙に引けたら乾かし、木板の下描きに乗せます。



美濃紙は薄いので、下描きの墨が透けるはずです。

それを鉛筆でなぞります。

①ドーサ(滲み止め)を引く – 1

金箔を貼りヤニ止めにする箇所を切り抜きます。

これはカッターを使っても構いません。


①ドーサ(滲み止め)を引く – 1



最後に布海苔を溶かして紙に塗り
木板に貼り付けましょう!


布海苔の溶かし方はこれが参考になりました!




これで、いにしえのマスキング技法の完成です!



こうすることで、
必要な所にのみ金箔を貼れますね!




美濃紙って何?貴重なの?
美濃紙は岐阜県美濃市などで作られる伝統的な和紙です。
その歴史は何と1300年以上前の奈良時代から続くそうです。
現在でも手すきで作られており、その技法はユネスコの無形文化遺産にもなっています!

今でもおしゃれインテリアなどで見られるくらい人気がある紙なんですよ!
特に、薄くて丈夫な特性から、ランプシェードでよく使われています。

厚いものから薄いものまでありますが、マスキングの用途的には薄い物で十分です


そんな工芸品が
驚きの1枚242円!



意外と簡単に入手できる紙なんだね!
これも画材屋さんにあることが多いよ!

手に入らない時は、新聞紙でも代用できるかもですね。
その時はインクが付かないように気を付けましょう。




【日本画】金箔を木板に綺麗に張るための準備をしよう!

次は金箔を綺麗に貼ればいいんだね!

金箔は「あかうつし紙」に吸着させると綺麗に貼れますよ!

金箔をあかうつし紙に移す方法はこちら!

あかうつし紙とは?
あかうつし紙とは金箔などを画面に貼るための紙です。
あかうつし紙は表面に粘着性があるので、
金箔が均等にあかし紙に貼り付きます。

金箔は非常に薄くそのままでは均等に貼れません。
しかし、あかうつし紙に一度移すことで、
うつし紙に付いた金箔を均等に画面に接着できるようになります。



↓こんな感じの金箔より一回り大きい薄い紙です。




というわけで、上記の記事を参考に
金箔をあかうつし紙に貼り付けておきましょう!



木板に描いた作品の面積に応じて
金箔を用意しておくのがおススメです!


【日本画】木板に下描きをした所だけ、金箔を貼る!

※実際はマスキング紙が付いています

あとは金箔を貼るだけです!

金箔貼りの手順
  1. 木板に濃厚な膠を塗る
  2. 乾いたら金箔を貼る
  3. 金箔の上から綿で押さえる
  4. あかうつし紙をゆっくり剥がす




まずは木板の必要な部分にのみ濃厚な膠を塗ります。



濃厚な膠とは?

粒膠15g(三千本膠):50㏄の水で溶かす!



膠15gにつき100㏄~150㏄が絵を描く時の濃さだね!


今回はヤニ止めが目標です。
墨の線の部分もしっかり塗りましょう!


ちなみにアートグルーでは金箔は接着できません。
使っている方は注意して下さい。

筆者が大学で教わった時は布海苔で貼っていました。


膠の溶かし方はこちらでチェックできます!



白いのは膠と思って下さい


膠が乾いたら、先ほどあかうつし紙に付けた
金箔を貼り付けます!


膠の乾き加減は慣れないと分かりにくいです。

水たまりになっていないが、
ギリギリ乾いていない程度


がベストです。


次に箔はさみを使って、
あかうつし紙に付けた金箔を乗せます!

もちろん金箔が下になるように乗せましょう!





金箔を乗せたら、その上を綿で軽く撫でます。

この綿は、百均のコットン等で大丈夫です!


この時、ズレる感じがあったら乾いていません

もう少し放置して、乾かすのがおススメです。





今回はヤニ止めなので
金箔は猫の輪郭内全面に付くようにします


しっかり乾いて接着したら、
丁寧にあかうつし紙を剥がします。

角からゆっくり剥がしていきましょう。


すると、金箔は膠を塗った箇所にのみ付着して、
余りの部分はあかうつし紙の方に残ります。



金箔が付いていない場所があったら、
その部分にだけ膠を塗って、
先に剥がした紙のひとかけの金箔で補修します。




完全に乾燥したら、金箔の上を綿でぬぐいましょう!




最後に、表面にドーサを塗って完成です。



【日本画】木板の下描きを墨で描き起こしてから、色を塗ろう!

金箔で消えた線を描き起こそう!

この方法では、墨で木板に描いた線が
消えてしまいますよね。


なので、着色に入る前に墨で線を描き起こしましょう!


現代では下図を上から置き、
カーボン紙で転写するのも良いですね。


転写する場合は上から墨でなぞった方が良いです。

【日本画】木板に貼った金箔の上から胡粉を塗っておこう!

金箔の上から描いたらキラキラになっちゃうんじゃない!?

胡粉で下地を作っておけば大丈夫です!


丹青指南では、金箔を塗った後の下地として胡粉を使っています!

  1. 胡粉を薄めに溶く
  2. 金箔を貼った部分に、胡粉を塗る



胡粉ってなに?
と言う方はこちらをチェック!



胡粉を絵皿に取って水で溶く



まず、胡粉を薄く溶きます。

チューブ絵具の場合は絵皿に胡粉を出し、
水で溶かせばOKです。




墨の線を避けて塗る



金箔を塗った部分に溶かした胡粉を塗ります。


このとき、墨の線は塗りつぶさないようにしましょう!

せっかく描き起こした墨の線を塗りつぶさないようにね!



【日本画】木板に絵を描き始めよう!

いよいよ木の板に絵が描けるんだね!

下塗りをしてから細部の着色に入りましょう!


まずは下塗りをします。
手順は以下の通り!

下塗りの手順
  1. 濃い絵具で墨線をよけて着色
  2. 淡い絵具で墨線も全て塗りつぶす


この下塗りを終らせてから、
次の塗り重ねに入っていきましょう!




ちなみに、この二回の下塗り方法は、
金箔をヤニ止めにせず杉戸や壁画に描く時も
同じ方法で彩色します。


あとは皆さんの好きな手順で着色を進めましょう!

まとめー日本画を木板に直接描いてはいけない!下地を必ず用意しよう!

最後までお読み頂きありがとうございます!

以上が日本画で木の板に絵を描く方法でした。

木の板そのまま描くと、木のヤニで汚れてしまいます。

特に神社の絵馬など長期間残る物は、
ヤニ止めが必須です!

そのために伝統的に行われたのが、
金箔を使った方法でした!


いまではより簡単なヤニ止めがありますが、
ぜひ歴史に思いを馳せて金箔の方法もやってみて下さい!


日本画を木に描く前に必ず読んでほしい本!


金箔を下地にする以外の方法も解説されています!
ボンドやジェッソを使って実験した写真も掲載!
実は最強の木地面向け下地も発覚しているので
ぜひチェックして下さい!

今回紹介した
今時の下地はこれ!





丹青指南現代語訳で木に描く方法を見てみよう!

狩野永徳唐獅子図
狩野永徳 – [1], パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=4210868による

ここからは狩野派の隈取の方法について原文で見てみましょう!



こちらの原書は『丹青指南』という絵の描き方の本です。

原書を読むにはどうすればいいの?


そんな時は国立国会図書館のサイトでチェック!

全文を無料で読むことが出来ます!


また、正確な訳や詳しい図解が欲しい!
という方は画材と技法の秘伝集がおススメです!



彩色雑事 一、()地面(じめん)にヤニ止めの箔を貼る方法

杉戸、
もしくは扁額へんがくなどに彩色絵を描くときに、
描く前から心得ておくべきことがあります。



人物を描く上で重要なのは顔であり、
また花弁を描く上で重要なのは花だということです。



これらの部分は絵の要ですが、
木地面への彩色が完成した後、
木からヤニが出て、絵を汚してしまうことがあります。



そのため、ヤニ汚れを予防する手段として、
どのような絵でも全て彩色をする前に、
かなめとなる部分に限り、
ヤニ止めの箔を貼ることが肝心です。



そのやり方を以下に示します。


(箔貼りをする部分の周囲に
箔がはみ出さないように、
「張り紙」と呼ばれる方法を行います。

ドーサを引いた美濃紙で
その周囲の形状を写し取って、
それを切り抜いて、
とても薄い布苔液で張り付け、
そのあと箔を貼り付けます。


木地面に描いた、
絵の要となる部分にだけ金箔を貼る方法。


まず、彩色する前にやや薄く溶いた胡粉を使って、
要の部分にのみほりぬりを施します。


(この胡粉は、はくきの後に書き起こす
素書きの線を明示する手段になります)


次に、金箔を動かさないように
重ねたまま、敷板の上に置きます。


そして、その上にある箔紙を一枚とって、
垢をすります。


(この垢をするというのは、
クルミの実を砕いて採った油を「バレン」に付け、
それで箔紙を摩擦することを言います)



それを、手頃な台の上に置いて
「バレン」で擦ると、その熱と油分とで、
箔紙は箔を吸い付けるようになります。



そして擦った面を下にして金箔の上に置き、
箔はさみで撫でれば、金箔は簡単にその紙に付着します。


それをゆっくり取って敷板しきいたの上に置きましょう。


そしてまた次の箔紙を一枚とって、
先ほどのように擦って箔を移します。


箔を移した紙は、貼る面積に応じて
敷板の上に作っていきましょう。


そして、箔貼り用の膠を塗り、
(この膠は特に濃厚なものです)
乾いたら
(この乾き加減は実際に経験するしか会得する方法はありません)

紙に移した金箔を置きならべ、
その上を綿で軽く撫でます。


すると、金箔は膠を塗った箇所にのみ付着して、
余りの部分は箔紙の方に残ります。


貼った箔紙を片端から徐々にがすと、
その部分は金箔の地になります。


置いた箔面にわずかにでも欠けがあるときは、
その部分にだけ膠を塗って、
先に剥がした紙のひとかけの残り箔で補修します。


置いた箔が乾いたら、その面上を綿でぬぐいます。



そして、艶消しと呼ぶドーサを塗って、
この箔置きは完成です。


次に、胡粉で示した素描の線を、
墨で描き起こしましょう。



その中を塗るときは、初めに濃い絵具で彫塗をし、
次に淡い絵具で塗埋をして、
その部分の下塗りをします。


そして任意の彩色を施して、
木地面の絵を完成させます。


ただし、このように最初にほりぬり
次にぬりつぶしで二回色を塗る方法は、
金箔の下地を作った箇所に限らず、
杉戸や壁画のなども同じ方法で彩色します。


人物であれば、その顔および手足、
また花であればその花弁と蕾などは、
すべて下塗りを二回施すものです。


加筆修正版はこちら!

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