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【日本画】棒絵具とは?棒絵具と藍棒の使い方を解説!【藍色染料も!】

この記事で分かること
  • 日本画の棒絵具の溶き方が分かる!
  • 藍色の染料から顔料を作る方法が分かる!
  • 狩野派による藍棒の溶き方が分かる!


こんにちは、日本画家の深町聡美です。


顔彩と同じ色成分で作られた
「棒絵具」



歴史が古く、また使いやすい絵具ですが
使用方法を知らない方も多いのではないでしょうか?



今回は日本画の棒絵具の使い方と、
棒絵具の前身とも言える
「藍棒」(あいぼう)について解説いたします!



藍色についても詳しく触れていきますので
興味がある方は最後まで読んで頂けると
嬉しいです。




日本画の棒絵具とはどんな絵の具?

画像はイメージです
Mahesh PatelによるPixabayからの画像

棒絵具って何?
普通の絵の具とは違うの?



 
棒絵具とは、色の素の粉である「顔料」を
膠(にかわ)やアラビアガム、蜜蝋などで

棒状に固めた絵具です。




現在使われている顔料は「顔彩」と同じなので、
アナログ絵描きさんには馴染み深いかも
知れませんね!



顔彩って何!?

⇒【大幅加筆!】顔彩とは?水彩絵の具との違いと使い方を解説!


膠って何!?
その答えは…

⇒【日本画】膠(にかわ)とは?作り方と使い方&種類を徹底解説【画材】





この棒絵具ですが、見た目はクレヨンにそっくり!


実際クレヨンも顔料を固めた物なので
近い画材と言えます。



ただ、見た目はクレヨンより太く、
子供が握って描くには大変です。



ですが、簡単に水に溶かすことが出来るので
老若男女問わずに使える便利な絵具なんですよ。






現在、12色が上羽絵惣、吉祥、ナカガワ胡粉
から製造されています。




まとめ
  • 棒絵具とは、顔料(色の素の粉)をアラビアガム・膠で棒状に固めた絵具のこと!





今回は棒絵具の中でも昔使われていた
「藍色」(藍棒)を中心にお話していきます。


棒絵具の使い方は後から解説致しますね。


藍とは何色?ーもとは緑色だった!?

藍染した布
Photo by Dimaz Fakhruddin on Unsplash

藍色って言うけど、どんな色なの?




現在使われている棒絵具から離れてしまいますが
まずは藍色の話をさせて下さいね。



というのも、昔は藍や代赭(たいしゃ)などを
固めた物が棒絵具として使われていた
からです。



棒絵具の歴史ということで、
少しでも参考にして頂ければ幸いです。






さて、まず藍色はどんな色なのか?
ということですが、この記事を読んでいる
方なら何となく色をイメージできるのでは
ないでしょうか?



そうですね、暗めの青っぽい色です。



ジーンズを染めるのにも使われる
Photo by Roberto Sorin on Unsplash





この藍色は藍という植物から取り出した
染料の色です。





ところで藍色は古代の日本においては
「緑色」を指す言葉だったのをご存じですか?



「青葉」のように、今でも緑のことを
青と呼ぶことがありますよね。



古代日本では「山藍」という植物から
色を染め出していました。


この「山藍」から染めだされた色が

緑色だったため、藍=緑を意味していたのです。




飛鳥時代に、青い色素を含む
「蓼藍」(たであい・韓藍とも言う)
が入ってきたことで、現在一般的な「藍色」が
日本に広がったのです。


まとめ
  • 藍色とは藍(蓼藍、琉球藍、インド藍)という植物から取り出した染料の色である!




藍色はなぜ「ジャパンブルー」と呼ばれるの?

Photo by Erol Ahmed on Unsplash

藍色って「ジャパンブルー」とも呼ばれているらしいね。
それは何故なの?





江戸から明治にかけて四国を中心に
蓼藍が大量に作られ江戸の町は藍染で
溢れていたのだそうです。



その様子を見た英国人化学者アトキンソンが、
藍色を「ジャパンブルー」(ジャパニーズブルー)
と呼んだと言われています。



また、小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)も
著書「日本の面影」の中で日本の藍染の多さに
言及しています。



日常の中で広く使われていた藍色は
日本を象徴する色だったと言えるでしょう。








なぜ青い色になるの?

藍の色の由来はインジゴという成分です。


インジゴは天然藍の主成分で、
酸素に触れると青く発色します。


中国から渡来した蓼藍や、琉球藍、
インド藍にはインジゴが含まれていますが
山藍には含まれていませんでした。


なので、同じ藍でも青色(藍色)にはならず
緑色に染まっていたのです。




まとめ
  • 藍色は江戸から明治にかけて日本で一般的に使われていた色!
  • 藍色はインジゴが酸素に触れることで青く発色する!




さて、藍という草から抽出した藍色。

これをどうやって棒絵具にしている
のでしょうか?



藍棒はどうやって作るの?ー染料を顔料にする方法

©DARENIHO



布を染める液から、どうやって棒状の絵具を作るの?




さて、こうやって作られた藍色は
主に染め物に使われる「染料」です。


藍棒は、この染料を顔料(大きい粒子)化して
絵具にしています。


染料を顔料にしたものを「有機顔料」と言います。




藍色の場合は、「藍建て」と呼ばれる工程で
発生する「藍の華」から顔料が取り出せます。



藍建て」「藍の華」とは?

藍染職人は、

藍(葉)⇒乾燥&発酵
⇒灰汁を加える⇒染液になる

という手順で藍色の染料を作っているそうです。

この内、灰汁を加えて染液を作る工程を
「藍建て」
と言います。


藍建ての数日後に発酵によって発生する
紫色の気泡を「藍の華」と呼びます。



インド藍、琉球藍の場合は、
沈殿物から藍色の顔料を作れるのだとか。



藍の華やインド藍・琉球藍の沈殿物を
集めて乾燥させ、粉末状にした物を固めた物が
藍棒」や「藍蝋」です。




ですが1875年に安価で堅牢な合成インディゴ
発明されており、現在はそちらを使うのが
主流になっているようですね。



まとめ
  • 藍色の染液を作る過程で出来る泡等から顔料を作っていた!
    (現在は合成インディゴが主流)
  • 「藍棒」は藍色の顔料を固めて作られていた!





棒絵具を溶かす方法



それではやっと、棒絵具の溶かし方に
話を移していきましょう!



絵具メーカーの吉祥さんが
棒絵具の使い方を動画で上げています。

ぜひこちらもご覧下さい。

用意するもの
  • 棒絵具
  • 絵皿

  • (古い棒絵具の場合)

①絵皿に水を入れる




絵皿に少量の水を入れます。


お好みの濃度に合わせて、
溶きながら足しても構いません。



②棒絵具を擦り溶く




棒絵具を皿に擦るようにして溶かします。

硯で墨を溶かす時と同じやり方ですね。



皿を少し温めておくと溶かし易くなります。

溶かしにくい時は指で棒絵具を擦って
溶かしても良いです。




古い棒絵絵具を使う時は、膠を少量加える
良いでしょう。

絵具がポロポロと剥離するのを防ぎます。



最後に指の腹で皿のに付着した絵具を
溶き下ろします。



③棒絵具を片付ける



水分をふき取って片付けます。

よく乾燥させることでひび割れや
容器に接着などを防ぎます。

棒絵具は溶かすのが簡単だね!



いかがでしょうか?
意外と簡単に溶かせてしまいますよね。



現在Amazonでも取り扱いがなく入手困難な
棒絵具ですが、手に入れた際には
ぜひ活用してみて下さいね!

まとめ
  • 棒絵具の使い方は絵皿に水入れて、擦り溶くだけ!









ここまでは超簡単に使える
棒絵具のお話でした。


ここからは、
逆に超面倒くさい!?「藍棒」の溶かし方を
解説致します!




江戸時代の絵師たちは手間を掛けて
絵具を溶かしていたんですね。


現代との違いも楽しみながらご覧下さい。

藍色の棒絵具を溶かす方法(丹青指南による)

©DARENIHO

昔使われていたっていう「藍棒」はどうやって使っていたの?
棒絵具と同じ感じ?



ではここからは、大正時代に書かれた
狩野派の技法書「丹青指南」を紐解いて、

棒絵具の前身である藍棒をどうやって
使っていたか、チェックしてみましょう。




藍棒を溶かす時に必要な道具は
以下の通りです。


必要な物
  • 藍棒
  • お椀
  • ぬるま湯
  • 練り棒(乳棒)
  • 絵皿(猪口)

①片側を折ってぬるま湯を入れ放置



藍棒は固形の棒状で、直径12~15mmです。


片端をおよそ12~15mm折って、
それを茶碗に入れ、上からぬるま湯を
注入します。



そのまま半日間から一晩放置します。


②茶色い水を捨て膠を加えて練る




放置すると、お湯が茶褐色の水になります。


その水を捨てて、少しの膠を入れて
練り棒で良く練り混ぜます。


なぜ水は茶色くなるの?

藍は酸素に触れることで青く発色します。
酸素に触れていない状態では
茶褐色をしています。



③水を少量加えて溶き下ろす



擦り棒を持ったまま、
中指で水を掬って、
擦り棒から伝い落としつつ、
溶き下ろします。



これで藍汁が完成です。

④一晩置いて、上澄みを用いる




藍汁を一夜置いておくと、
溶けきれない、きめが粗い物が沈殿し、
彩度の高い藍汁が上澄みになります。


上澄みを絵の具皿に分けて使います。



Q&A 藍汁が分離した時は?




藍汁が分離するのは、
まだ練り足りないからです。


もう一度よく練りなおしましょう。



その時は藍汁が入った猪口を
弱火にかけて大体乾かします。


それに少しの膠を加えてから
②~③のように練って下さい。




練り直しても色が変わることは
ありません。


Q&A 乾燥しちゃった時は?




藍汁が自然乾燥したときは
藍汁が入った猪口にぬるま湯、
もしくは水を入れて暫く置いておきます。



この時も茶色い水が出てきますので
それを捨ててから、

膠を少量加えて練り溶きましょう。



まとめー【日本画】棒絵具とは?棒絵具と藍棒の使い方を解説!




藍棒を溶かすだけでも手間がかかったんだね!




現在私たちが使っている棒絵具は
水で溶かすだけで誰もが使える
便利なもの。



ですが、棒絵具が発明される前の
藍棒は、溶かすだけで三日も要するのです。


これだけ簡単に使えるようになったのも
偏に絵の具メーカーさんの努力の賜物
ですよね。



最後に、この記事の元である
丹青指南の現代語訳を載せておきます。

もしよければご覧下さい。



一、藍棒ー丹青指南現代語訳

狩野永徳唐獅子図
狩野永徳 – [1], パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=4210868による





この現代語訳は筆者が趣味で行いました。

大正時代の文章の専門家ではないので
間違い等あることを承知の上で
ご覧下さい。



↓原文はこちらでお読み頂けます。
国立国会図書館「丹青指南」



また、こちらの本でより詳しく
解説がなされています。

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原文が本で読めるようになりました!

一、(あい)(ぼう)

Kano Hideyori – Emuseum, パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=7878962による





この絵具は日本の藍の草から抽出して
棒状にした物です。

これを藍汁として使う方法を解説します。




藍棒は固形の棒状で、直径12~15mmです。


その片端をおよそ12~15mm折って、
それを茶碗に入れ、上からぬるま湯を注入します。

そのまま半日間から一晩放置します。




そうすると、藍から水分を分泌するので
注いだお湯は茶褐色の水になります。


次に、その水をひっくり返して捨て、
擦り棒で練りながら少しの膠を入れて、
さらによく練り混ぜます。


その後、擦り棒を持ったまま、
その中指で水を掬って、
それを擦り棒から伝い落としつつ、
溶き下ろすと藍汁が完成します。


その藍汁を一夜置いておくと、
まだ溶けていない、きめが粗い物が沈殿します。


沈殿した後の上澄みは彩度の高い藍汁です。


それを絵の具皿に分けて用いるのです。



このようにして溶かした藍汁は
壁画および屏風などに描かれた大和絵の
濃厚な藍水とは違うので、
すぐれた色相を呈するのは困難です。



そのほか普通の水の色
または藤黄を混ぜ合わせて草の汁に使うのも
良いでしょう。
その色は極めてすぐれています。



このようにして、溶いた藍汁のが
分離したように水と別れるのは
まだ練り足りないためなので、
さらにもう一度練り直すべきです。


その場合は、藍汁の猪口を弱火にかけて
おおかた乾かし、それに少しの膠をいれて、
前のように練擦って溶きます。


こうして再び練っても、
色相が変わることはありません。


また、前に溶いた藍汁が
猪口の中で自然に乾いたときは、
その猪口にぬるま湯、
もしくは水を入れて暫く置いておきます。


そのときは、これにもまたいくらかの
水気を分泌するので、その水を捨てて、
また少しの膠を入れて、
前のように練って溶き下ろします。




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参考サイト(一部)

綾の手紬染織工房
藍の家
藍色を「ジャパン・ブルー」と名付けたのは英国人化学者だった
紺屋の白袴
「ジャパンブルー」はいつ、どうやって生まれたか?



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七夕の歌「砂子」(すなご)の本当の意味とは?やり方も解説!【日本画】

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