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日本画の「具にする」とは?胡粉を混ぜて作れる絵具10色を紹介!


こんにちは、日本画家の深町聡美です。


みなさん、日本画の「具」って知っていますか!?


日本画を習っていると、
日本画の絵具を「具(ぐ)にする」

とか、

「具絵具(ぐえのぐ)」

という言葉を聞いたことがあるかもしれません。


結論から言うと、
日本画の「具」とは「胡粉を少し混ぜること」
を言います!



今回の記事では

  • 「具」という日本画用語の意味!
  • 「具」の絵具は種類がたくさんある!

ということを、
江戸末期の狩野派の技法書「丹青指南」を元に
解説していきます!

より正確で具体的な情報はこちらの本でチェック!



日本画絵具の「具にする」とは?

撮影:DARENIHO

「具」ってどんな意味なの?

DARENIHO

胡粉という意味です!



胡粉とは日本画の白い絵具のこと!

イタボガキやホタテなどの貝殻を砕いて
風化させ、粉にしたものです!



上質なものは、胡粉独特の透明感があり、
明るく鮮やかな白色なんですよ!


販売されている状態では白い粉なので、
と練らないと使えません。


■関連記事

⇒【日本画】胡粉の作り方とは?塗り方、使い方を解説!【丹青指南現代語訳】

⇒【日本画】膠(にかわ)とは?作り方と使い方&種類を徹底解説【画材】



胡粉
撮影:DARENIHO



この胡粉を絵具に加えることを
具にする」と言います。


具にした絵具は
「〇〇具」と呼ばれることが多いです。


DARENIHO

ですが、胡粉作りをマスターするのに10年かかるとも言われます。

そんなに難しいことできないよ!


チューブ胡粉を使おう!

撮影:DARENIHO
DARENIHO

それならチューブ胡粉を使うと簡単です!


チューブ胡粉は、
胡粉をチューブに入れたもの!


水彩絵具のように手軽に使える胡粉です!


「色や使い心地はどうなの?」

と不安に思うかもしれませんが、

下手に練った胡粉より、
使い勝手も良く、発色も美しいと思います。


使う分だけ出せるので、腐らせる心配もありません。

具絵具を作るときだけでも使えて、手軽だね!



簡単に具にするなら吉祥の「具絵具」がオススメ!

最初から白っぽい絵具はないの?

DARENIHO

吉祥から「具絵具」というシリーズが出ています!


日本画プレイヤーならお馴染みの
吉祥」さんから、「具絵具」という商品が出ています。


こちらは胡粉をベースに顔料を混ぜた絵具!

そのため、白っぽい、ペールトーンの色味が特徴です。


通常の水干絵具にも白っぽい色はありますが、
さらに多彩な色となっています!


単色販売とセット販売があるんだね。

DARENIHO

使い方は水干絵具と同じです。
吉祥さんの使い方動画を参考にして下さいね!




「具」にして作る、日本画の絵具10選

チューブ絵具も用意したし、自分で具絵具を作ってみるよ!

DARENIHO

ここからは丹青指南に載っている、具絵具10種のレシピを紹介します!



ですが紹介前に注意点!


江戸時代末期の狩野派の指南書、
「丹青指南」には混色比率が書かれていません!


その理由は以下の通り。

この混合絵具は、全種の混色比率が一様に同じではない。
〜混ぜる色料の量に差があるのは、
その図柄(描くもの)によって違う色が必要なためである。
そのため、それらの割合を記す方法がない。

丹青指南


つまり、

描くもの(モチーフ)によって適した比率が違う。
だから説明できないということ!



そのため、必要に応じて胡粉や絵具の量を
試して、調整しましょう!


混ぜる比率はケースバイケースなんだね!

DARENIHO

胡粉を入れすぎると真っ白になってしまうので、少なめがオススメ!
ほんの少し筆先にとって加えるだけでいいでしょう。


具にした日本画絵具は再利用できない!
胡粉を入れて具にした絵具は、
乾いてしまったら再利用できません!

数日かけて使うときはフタをするなどして
乾燥を防ぎましょう!



あいのぐ 別名浅葱あさぎ

藍具(浅葱)

藍色と白を混ぜた感じだね!


藍具(あいのぐ)」は、
別名「浅葱(あさぎ)」とも言います。

この絵具は藍汁に胡粉をまぜたもので、
さまざまなものに使われた絵具です。


藍具の使い道
  • 日本、中国の男女の服
  • 紫色の花の下絵塗り
  • 素槍(すやり)の下塗り

素槍すやり)って何!?
すやりとは、日本風の絵によく描かれる、
横から生えてるような雲的なものです。

「すやり雲」「すやり霞」
「槍霞」などとも言います。

余白や遠近感を出すための表現として
絵巻物や屏風などで用いられてきました。

現在でも「日本的な絵」の表現に使われていますよね。


藍色はこちら!

⇒【日本画】棒絵具とは?棒絵具と藍棒の使い方を解説!【藍色染料も!】



黄具おうのぐ

藤黄具

現代では黄色と白だね!

「藤黄具」とは「しおうのぐ」と読み、
胡粉に藤黄を混ぜたものです。

丹青指南では、
「隈取り」を弾くと、注意書きがあります。

藤黄具の使い道
  • 日本、中国の男女の服
  • 黄色の花の下絵塗り


藤黄の解説はこちら!



びゃくろくのぐ

白緑具
  • 胡粉
  • 白緑青

薄い青緑に白を足しているね。

「白緑具」は「びゃくろくのぐ」と読む
胡粉に白緑青を混ぜた絵具。


ただしこの絵の具も「藤黄具」と同様に、
隈取りをはじくので、膠の注ぎ方に注意します。

白緑具の使い道
  • 日本、中国の男女の服
  • 白い花の下地



臙脂えんじのぐ

臙脂具

今で言うと、赤に白だね!。

「臙脂具」は「えんじのぐ」と読む
胡粉に臙脂を混ぜた絵具です。


こちらも、花や衣服に使われたほか、
人物の肌の色にも使われています。

臙脂具の使い道
  • 日本、中国の男女の服
  • 紅色の花の下地
  • 美人や子供の肌


臙脂の解説はこちら!



「ウルミ」具

ウルミ具

今で言うと、紫に白だね!。

「ウルミ具」は
藍色と臙脂を混ぜて作った「ウルミ」に
胡粉を混ぜた絵具です。

ウルミ自体が混色して作られた絵具となっています。

ウルミ具の使い道
  • 束帯の指貫
  • 紫色の花の下地
  • 中国人、日本人の服装


すみのぐ 別名すみ

具墨
  • 胡粉

今で言うと、黒に白だね!。

「墨具」は「すみのぐ」と読み、
別名「具墨」(ぐずみ・ごずみ)とも言います。

墨に少しの胡粉をを混ぜた絵具です。


こちらも、花や衣服に使われたほか、
人物の肌の色にも使われています。

墨具の使い道
  • 束帯の黒袍の地色
    (上から濃い墨で紋を描くと光沢が出る)
  • しわがある烏帽子


たんのぐ またはにくしき

丹具/肉色

オレンジに白だね!。

この絵具は、胡粉と丹の混ぜる比率によって
名前が変わります。

胡粉が多くて白っぽいの
「肉色」(にくしき)

丹が多くてオレンジが強いのを
「丹具」は「たんのぐ」といいます。


同じ色を混ぜていますが、
肉色と丹具では使い道が少し違います。

丹具と肉色の使い道

肉色

  • 中国、日本の青年や子供の肌
  • 家屋の柱、角材


丹具

  • 日本および中国の男女の服
  • 朱、丹で仕上げる花の下塗り


丹の解説はこちら!




黄土具または鳥の具

黄土具/鳥の具

今で言うと、黄土色に白だね!。


この色も丹と同じく、
混ぜる比率によって名前と用途が変わります。


胡粉に混ぜた黄土が多いのは
「黄土具」といいます。

それよりも黄土が少ない物が
「鳥の具」です。

黄土具/鳥の具の使い道

黄土具

  • 日本、中国の男女の服

鳥の具

  • 鳥類の下塗り
  • 動物の下塗り
  • 魚類の下塗り
  • 家屋の仮敷の下塗り


ただし、

鶴、白鵬(はんかん)、白色の鳥には使わず、
最初から胡粉で塗ります。



黄土の解説はこちら!




きの

樹具
  • 胡粉
  • 白緑青

アップルグリーンに白と黒だね!。

「樹具」は「きのぐ」と読む

胡粉に白緑青、少量の墨を混ぜた絵具です。


その名の通り、日本画の樹木に使われた色です。

樹具の使い道
  • 樹木の下塗り
    (松の木以外)


DARENIHO

節や、木肌のシワが少ない所には、
代赭+黄土+胡粉少々 を混ぜた色で樹具と隈合わせにして塗るそうです。



たんずみの

丹墨具

今で言うと、茶色に白だね!。

「丹墨具」は「たんずみのぐ」と読む
胡粉に丹墨を混ぜた絵具です。


あらかじめ丹墨をつくっておき、
それに胡粉を混ぜましょう!

丹墨具の使い道
  • 日本、中国の男女の服
  • 器具のたぐい


丹墨の解説はこちら!



まとめー日本画の「具にする」とは?胡粉を混ぜて作れる絵具10色を紹介!



以上が、狩野派の指南書「丹青指南」に
掲載されている絵具の紹介でした!


今回は「具」、つまり胡粉を入れた絵具
ピックアップしましたがいかがでしたか?


今まで、なんとな~く
胡粉を入れて白っぽい絵具を作っていた方も、

「これって…具にしている!?」

と思うと、今までと違った気持ちで描けますよね。



試していない色があれば、
ぜひ混色して作ってみて下さいね!




最後に、
より分かりやすい日本画の専門書と
用語集をご紹介します!

本格的にやってい見たい方は、

ぜひお手に取り下さい!

日本画独学必見の良書2選!


丹青指南現代語訳

狩野永徳唐獅子図
狩野永徳 – [1], パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=4210868による



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丹青指南を趣味で現代語訳しました。

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一、あいのぐ 別名浅葱あさぎ

この絵具は藍汁に胡粉をまぜたもので、
日本および中国男女の服装に使う。

また草木の花の類で、紫色のものには、下塗りに使っている。

そのほか、壁画屏風などの大和絵のうち、
金砂子、金泥引きに描かれている、
余白をあしらう「素槍」
(霞に真似た横すじ)
の下塗りとして使われる。

一、黄具おうのぐ


この絵具は、胡粉に藤黄を混ぜたもので、
日本および中国の男女の服装、
または草木の花類で黄色のものであればその下地に使っている。


ただし、この絵具は他の絵具と同様に、
膠を入れるときは、
次に話す「隈取り」を弾くので注意するべきである。

一、びゃくろくのぐ

この絵具は、胡粉に白緑青を混ぜたもので、
日本および中国の男女の服装や、
草木の花類で、白色のものにはその下地に使われる。

ただしこの絵の具も「藤黄具」と同様に、
隈取りをはじくので、膠の注ぎ方に注意する。

一、臙脂えんじのぐ


この絵具は、胡粉に燕脂を混ぜたもので、
日本および中国の男女の服装、
または美人や児童の、肌の色に使うことがある。

そのほか、草木の花類で、
紅色のものには、その下地に塗る。


一、「ウルミ」具


この絵具は、胡粉に「ウルミ」を混ぜた物で、
束帯の指貫、または日本と中国男女の服装、
そのほか草木の花類で紫色のものの下地に用いる。

一、すみのぐ 別名すみ



この絵具は、濃い墨の中に少しの胡粉を混ぜた物で、
束帯の黒袍の地色に塗り、
その上には濃墨で、紋書をほどこす。

そうすると特に光沢が出て、鮮明になる。

その他、しわがある烏帽子であっても
袍と同じように仕上げる。

一、たんのぐ またはにくしき



この絵具は、胡粉に混ぜた丹の少ない物は肉色と言って、
日本および中国の青年または子どもの肌の色、
そのほか家屋の柱および角材などに使用する。


そして、混ぜた丹が少し多いものは丹の具と言い、
日本および中国男女の服装や、
丹および朱で仕立てを施すべき草木花類の下塗りに用います。

一、黄土具または鳥の具


この絵具は、胡粉に混ぜた黄土が多いのは、
黄土の具と言って、日本および中国男女の服装に使用する。


また混ぜた黄土がやや少ない物は、
鳥の具として、鳥類一般や、
獣類および魚類、
そのほか家屋の板敷一般の下塗りに使う。

ただし、鶴、および白鵬(はんかん)、
そのほか白色の鳥類にはこの絵の具を塗らないで、
最初から胡粉で仕上げる。

一、きの


この絵具は、白緑青にほんの少しの墨および、
胡粉を混ぜたもので、大和絵樹木一般の下塗りに使う。


そして節のところや、木肌のシワがやや少ない所には、
代赭と黄土と、少しの胡粉を混ぜた絵具で
樹の具と隈合わせにして塗る。

ただし大和絵の、松の幹の下塗りには
この絵具を使わない。

一、たんずみの


この絵具は、以前練っておいた丹墨に胡粉を混ぜたもので、
日本および中国男女の服装または諸器具の類にも使う。





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⇒日本画絵具を混色して作れる色9選【日本の伝統色】

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