こんにちは、日本画家の深町聡美です。
日本の伝統色「藤黄」
現在でも日本画絵具売場などで
見かける色ですよね。
ですが、皆さんはこの色の読み方を
ご存じですか?
この「藤黄」、
「とうおう」と「しおう」の二種類の
呼び名があるのです。
ではなぜ、そんな難しい事になってしまったのか?
結論から言うと、
雌黄(しおう)という猛毒絵具と混同されたから!
今回の記事では
- 藤黄の原材料、
- 日本ではどうやって使われていたか
この二つを中心に解説していきます!
Contents
藤黄とはどんな色?

和名読み方 | とうおう/しおう |
カラーコード | #F2C11C |
RGB | (242, 198,28) |
マンセル値 | 10YR 8.0/12.0 |
英名 | ガンボージ gamboge |
藤黄は「とうおう」「しおう」と読み、
わずかに赤みの黄色をしています。

それは藤黄の原料になった、ある鉱物のせいです!
藤黄の絵具の原料は?
有毒鉱物「雌黄」による藤黄








もとは黄色い石の絵具が「雌黄」と呼ばれていたそうです!
元々この黄色い絵具の材料は
有毒鉱物「雌黄」です。
石黄という石が原石です。
石黄ですから、見た目は美しい黄色い石!
ですが、この石黄の成分は三硫化二砒素【As2S3】
簡単に言うと毒です!
⇒【危険】絵の具には毒性があるって本当!?【子供が食べても大丈夫?】
雄黄の毒性はヒ素によるものだが、ヒ素単体よりも水溶性が高いため、劇物とは言われないが人体に対する毒性は強く、毒物として法令で指定されている[5]。保護眼鏡と手袋を使い、また粉塵を吸い込まないようマスクをするなどして、塊でも粉体でも人体に直接に触れる事のないように取り扱う。保存には専用の容器を用意し、また飲食をする場所に持ち込むべきではない。容器外に飛散したり環境中に放出される事は厳に防ぐべきである。
雄黄|wikipedia
この石黄を中国では
「雌黄」(しおう)と呼んでいたのです。
一方で、石黄と共に採石される「鶏冠石」を
「雄黄」と呼びます。
日本では石黄、
つまり中国での雌黄を「雄黄」と呼んでおり、
混同されて用いられがちです。
- 中国
石黄=雌黄 鶏冠石=雄黄 - 日本
鶏冠石=雌黄
有毒ではありますが、
雌黄は古来から絵具として用いられていました。
絵具としては耐光性が弱く、色褪せやすいとされます。
雌黄(オーピメント) pic.twitter.com/4MmAWVRR22
— 藤田飛鳥 (@asukafujita) June 6, 2022
- もともと、有毒な黄色い石を「雌黄」(しおう)とよんで絵具にしていた!



雌黄と藤黄、どっちも「しおう」なんだ!
金の絵具と呼ばれたレア絵具
石黄の英名Orpiment(オーピメント)は
ラテン語でAuripigumrntum、
「金の絵具」と呼ばれました。
現在では強い毒性が認知されており
貴重な絵具のひとつです。
「ガンボージ」の樹脂による藤黄
YouTube|FRUIT ADDICT


もとは有毒な黄色い石の絵具が「しおう」だったんだね。






ですが危険なので植物性のものに代わっていきました。
藤黄は現在はインド、ミャンマー、タイなど
東南アジアの常緑高木樹、ガンボージの樹脂が原料です。
もともと使われていた雌黄は危険な砒素化合物。
これではとても絵具として使いにくいですよね。
そこで、水に溶けるガンボージの樹脂を
雌黄の代替とし、
江戸時代から「藤黄」と呼ばれました。
ただガンボージにも毒があるようです。
また、藤黄は草雌黄、銅黄、同黄とも呼ばれ、
奈良時代には黄色の絵具として使われています。



雌黄と藤黄が混同されて「しおう」になったんだ…






この辺りの変遷は諸説あるようです。
日本画での藤黄の特徴は?
現在使われているガンボージによる藤黄は、
透明感があり鮮やかな黄色をしています。
絵具の形状としては、固められた樹脂です。
現在絵具屋三吉で購入することができます。
漆を採る時のように、ガンボージの樹皮を傷つけ、
樹脂を採取しています。
日本画の藤黄の使い方
藤黄の使い方は簡単!
- 藤黄に水を付け絵皿に擦る
なんとたったのワンステップ!
摩り下ろすだけで、
膠を入れる必要もありません。
ただ、絵具としては使いやすくても
耐光性に乏しく、褪色しやすいので注意しましょう。






樹脂は乾燥させて保存しましょう。
また、使う分だけ溶かしましょう。
腐ります。
藤黄はどんな所に使われたの?


福田邦夫著「色の名前はどこからきたか」
によると、
藍蝋を混ぜて黄緑色として使われていました。
(ただし雌黄表記)
この黄緑は今の鮮やかな草の色ではなく、
「いかにも日本的」な渋い黄緑。
苔色に近いとされています。
ただ、これが日本の草木の雰囲気を
表現しやすい色だったとされています。
さらにこの苔色は金泥や金箔、
白木にもよく調和していました。
まとめー藤黄(とうおう/しおう)とはどんな色?【日本画絵具も解説!】


以上、藤黄の解説でした!
藤黄は「とうおう」とも「しおう」とも
呼ばれる黄色い絵具!
元は雌黄(しおう)という絵具だったのが
植物の藤黄(とうおう)と混同されてしまったのです。
幸い、藤黄の原料であるガンボージの樹脂は
通販で入手できます!
皆さんも古代の藤黄に思いを馳せて
絵を描いてみませんか?
丹青指南現代語訳


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一、藤黄
この絵具は、粉絵具ではなく、中国の一地方から産出する一種の樹脂である。
なので普段から溶いてそのままにしていると、黄色い汁が腐敗しやすいので、使用するたびに水で摺って使うのが良い。






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⇒カーマイン(洋紅)色は原料も意味も虫だった!【日本の伝統色と絵具】
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なんで藤黄と書いて「しおう」と読むの?