- 膠とアートグルーの違い
- アートグルーを使う上での注意点
- アートグルーの使い方、片付け方
こんにちは、日本画家の深町聡美です。
皆さん、アートグルーという画材を知っていますか?
筆者は前々から知っていたのですが、
怖くて最近まで使った事はありませんでした。
「これは膠ではありません」
「混ぜて使わないで下さい」
など日本画マスター玄人向け!
な注意事項が並んでいたからです。
ですが、オススメされて使ってみたら
とても使いやすい画材だったのです!
今回の記事では、アートグルーの使い方や注意点、
そして実際に使ってみての感想を写真付きで
ご紹介させて頂きます!!
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Contents
アートグルーは膠の代わりになる画材!
![](https://nihongago.com/wp-content/uploads/2021/02/honey-924174_1920-1024x683.jpg)
まず、アートグルーとは一体何に使う物なのか。
一言で簡単に言ってしまうと、展色材になります。
つまり日本画でいうと、膠にあたる物になります。
膠の代わりに使えるのが、このアートグルーなんですね。
「展色材」の意味はこちらの記事で触れています!
アートグルーと膠の違いは?
![](https://nihongago.com/wp-content/uploads/2022/01/IMG_0259-1024x562.jpg)
では日本画で使われる膠とアートグルーには
どのような違いがあるのでしょうか?
まず、製造元の株式会社小島美術HPから説明を
引用させて頂きます。
アートグルー(Art Glue)多目的な表現が可能な樹脂膠
膠が主流とされる日本画においても使用されているアルカリ可溶性アクリル樹脂をベースにした糊剤。
引用:アートグルー/株式会社小島美術
筆ムラが少なく、明るい発色が好まれています。
乾燥後は耐水性になるため、下層の絵具がずれる心配がありません。
絵具の厚塗りにも耐えられるトラブルの少ない堅牢な塗膜を作ります。
別売の増粘剤の効きも良く、幅広い表現で作品制作が出来ます。
顔料と糊剤を混ぜ合わせた後、水で希釈して描画します。
洗い出しには別売の溶解剤をご使用下さい。
原材料:合成樹脂
液状
アートグルーの成分は膠ではない!
![](https://nihongago.com/wp-content/uploads/2022/01/IMG_0256-1024x768.jpg)
HPに記載がある通り、アートグルーは膠ではありません。
成分はアルカリ可溶性アクリル樹脂。
なので、三千本膠等の動物性膠とは、
全く異なる特徴を有しています。
膠って何!?
その答えはこちらの記事で
➡【日本画】膠(にかわ)とは?作り方と使い方&種類を徹底解説【画材】
- 明るい発色
(膠の黄色が無い) - 筆ムラが少ない耐水性
(アクリル樹脂のため) - カビを防ぎ、腐敗しにくい
(動物性たんぱく質ではないため) - 厚塗りに耐えられる
(湿度等によるひび割れが起きにくい) - つまり膠と混ぜて使えない
- 温度変化に強い
- 増粘剤、溶解剤がある
- 木材、石材、金属に使用可能
- 明礬を混ぜてもドーサにはならない
「動物性膠か、樹脂か」の違いが大きいですね。
雅幸画房さんのHP、日本画生活によりますと、
- 濃度調節が不要
- 金箔に直接描ける
のだそうです。
金箔に直接描けるのは、粘度が高く、
定着力もあるためだと考えられます。
アートグルーは増粘剤や溶解剤と合わせて表現の幅が広がる!
![](https://nihongago.com/wp-content/uploads/2022/01/doenjang-g87a246164_1280-edited.jpg)
アートグルーを製造している株式会社小島美術
からは、アートグルーと混ぜて使える
増粘剤と溶解剤が販売されています。
増粘剤はアートグルーに10%の比率で混ぜる事で
ペースト状の質感を作る事ができます。
これを使えば、日本画でも簡単にモリモリの
盛上げ表現ができるのですね!
増粘剤の公式商品紹介ページはこちら!
お次は溶解剤。
膠と違ってアートグルーは耐水性です。
それで困ってしまうのが、洗い出し技法と
絵皿に残った絵具の再利用、膠抜き。
特に洗い出しは、強い色味を簡単になじませる
ことができる便利な技法です。
耐水性という性質で封印されてしまうのは
勿体ないですよね。
溶解剤はそんな洗い出し技法や片付けの時に
使用する、アートグルーをゆっくり溶かして
くれる溶剤なのです。
それではこれからは、
実際にアートグルーを使ってみての感想を
ご報告いたします!
アートグルーの使用上の注意(健康について)
![](https://nihongago.com/wp-content/uploads/2022/01/IMG_0261-1024x579.jpg)
素朴な商品外観。
使用方法や使用上の注意が書いてあります。
内容は絵具屋三吉の商品ページに抜粋してありますが、
健康に関する事なので、こちらでも引用させて頂きます。
<注意事項> ※人体には使用しないで下さい。※肌に痒みや刺激を感じた場合は使用を中止して、皮膚科専門医にご相談ください。※アレルギー体質や肌の弱い方は、直接手に触れないで下さい。※目や口に入れないで下さい。※日陰の冷暗所に保管してください。※幼児の手の届かない所に保管して下さい。※本品を使用して生じた事故の責任は負いかねます。使用前に必ずお試しになり、使用者の責任においてご使用ください。
アートグルー/絵具屋三吉
注意事項がたくさん書いてありますが、
食べたり飲んだり目に入れたりしない、
と当たり前のことなので
気を付けていれば全く問題ないでしょう。
しかし、肌が弱い方は、通常の膠のように
指で混ぜない方が良いかもしれません。
そのような方は
- 乳棒を代用する
- ゴム手袋を装着する
など、皮膚に触れない工夫をする必要があります。
アートグルーのメリット
![](https://nihongago.com/wp-content/uploads/2021/02/IMG_5713.jpg)
アートグルーは、ほぼ無色!
まず、容器から出して初めて気づくのは色です。
上の画像のように、膠には黄色い色が付いています。
この膠の色によって、絵具の発色が悪くなったり、
絵が黄色っぽくなったりということが起きていました。
そのため、
最初は膠の濃度を濃くして堅牢にして
(でも発色は悪い)
最後の方は発色を良くするために濃度を薄めて……
と進行度によって膠の濃度を調整する必要が
あったのです。
![](https://nihongago.com/wp-content/uploads/2022/01/IMG_0258-1024x650.jpg)
しかし、アートグルーはほぼ無色透明。
わずかに蛍光感のある乳白色をしています。
そのため膠による変色がなく、
顔料本来の鮮やかな色を使うことができます。
実際に花胡粉をアートグルーで
混ぜて使いましたが、
膠使用時よりも、鮮やかな白になりました。
まるで高価な胡粉のようです。
冬でも凍らない(固まらない)
![](https://nihongago.com/wp-content/uploads/2020/12/cake-113606_1920-edited-1024x576.jpg)
膠はゼラチンとほぼ同じような物!
そのため、あたかも手作りゼリーを冷蔵庫に入れて
固まらせるかのように、
膠も冬になると室温でプルプルに固まります。
(この現象を「膠が凍る」と呼ぶことがあります)
こうなると、湯煎し直すなどして温めて、
再び溶かすまで制作作業を中断せざるをえません。
膠を保温するアイテムはこちらでご紹介!
➡【日本画】冬に固まる膠の保温に必携!便利アイテムを一挙紹介
しかし、アートグルーは全く固まらない!
元々、膠よりも粘度があり、
固まりかけの膠のような手触りをしていました。
(サラッとしたアラビアガムのような感じ)
しかし、凍るようなことはなく、
冬でもスムーズに作業が進められます!
作品表面が堅牢
![](https://nihongago.com/wp-content/uploads/2022/01/IMG_0263-1024x533.jpg)
上の写真は、生(ドーサ引きされていない)
土佐麻紙にアートグルーで絵具を
引いたものです。
比較対象がない上に、写真では分かりませんが、
なんとなく、膠を使ったものと比べて
堅牢な印象があります。
ビタッと付着していると言うのでしょうか。
粉っぽさが無い、フワッとしていないとも言えます。
そして
こすっても顔料が取れる事はありませんでした。
顔料はしっかりと紙に付き、
塗り重ねて行っても堅牢さは変わらなさそうです。
この堅牢さがメリットであると言えますが、
逆に、フワッとした胡粉独特の色合いや
淡い色の拡がりなどの表現には
膠の方が向いているのではないかという印象を
持ちました。
※その他は気づいたら追記します
アートグルーのデメリット(制作上の注意点)
アートグルーと膠を一緒に使えない
![](https://nihongago.com/wp-content/uploads/2021/12/chaozzy-lin-Y1ge0B9_oGE-unsplash-1024x868.jpg)
この中で特に気を付けたいのが、
「膠と一緒に使うのはNG」という点です。
絵具が剥がれにくくて堅牢、湿度や温度に強い!
ということは、
収縮率が膠と全く異なると言う意味。
膠を使った層の上からアートグルーを重ねるなど
混ぜて使ってしまうと、逆に、剥がれたり
劣化を早めたりする原因になってしまいます。
アートグルーに明礬を混ぜてもドーサ液にはならない
![](https://nihongago.com/wp-content/uploads/2022/01/watercolor-gcd8b730cb_1280-1024x682.jpg)
アートグルーは膠ではありません。
全く成分の違う樹脂です。
そのため、アートグルーに明礬を混ぜても
ドーサ液にはなりません。
ドーサ液は動物性たんぱく質である膠と、
ミョウバンの化学反応で
滲み止めになっているからです。
固まると膠抜きできない
![](https://nihongago.com/wp-content/uploads/2020/12/paint-958689_1920-edited-1024x575.jpg)
膠は温かいと液状になり、寒いと固体になります。
つまり温度によって性質が変わりやすいのです。
一方で、アートグルーは温度によって
変質しづらく、それが作品の堅牢さに
繋がっています。
これは言い換えると、一度固まると
お湯に溶かせない=膠抜きができないと言えます。
しかし、アートグルーが固まる(乾ききる)前であれば
絵皿に水を注ぎ、混ぜて、上澄みを捨てる
これを何度か繰り返す
この方法で膠抜きをした時と同じように
保管することができます。
その他の注意点
![](https://nihongago.com/wp-content/uploads/2022/01/markus-spiske-VO5w2Ida70s-unsplash-1024x683.jpg)
顔料をアートグルーに漬けたままにしておくと
顔料が変質する恐れがあるそうです。
また、天然群青や天然緑青など同を含んだ顔料は
アートグルーに入れたら早めに使わないと
色が溶け出すとのこと。
アートグルーの使い方
上記の動画では、
アートグルーだけを使う方法、
溶剤で拭き取る方法、
増粘剤を混ぜる方法が紹介されています。
基本の使い方は以下の通り。
- 絵皿に顔料を出す
- 顔料と同じ比率でアートグルーを入れる
- アートグルーと同量~二倍程度の水を加える
顔料1:アートグルー1:水1~2
になるように混ぜればOKです。
原液のままで混ぜてもOK!!
増粘剤を混ぜるときは、
- 絵皿に「顔料1:アートグルー1」の比率で出して混ぜる
- 「混ぜたアートグルーの10%分」の増粘剤を加える
- ペースト状になるまで練る
という手順になります。
混ぜ方はほとんど膠と変わりませんね!
アートグルーの片付け方
![](https://nihongago.com/wp-content/uploads/2022/01/water-tap-gcb0a97529_1280-1024x722.jpg)
片付けの基本は水洗い!
絵皿に残った絵具も水やお湯で落とすことが出来ます。
しかし、膠のように水溶性ではないので
手でこするだけでは汚れが残ってしまいがち。
そこで便利なのが、メラミンスポンジです。
これで軽くこすれば膠のようにスルスルと
落ちますので、オススメです。
よく「激落ちくん」という商品名で百均などに
売っていますので、探してみて下さいね!
アートグルー溶解剤なら膠抜きもできる!
お湯で膠抜きをすることは出来ませんが、
溶解剤を使えば膠抜きも出来てしまいます!
- 固まった絵具が入った絵皿に溶解剤を入れる
- 指で混ぜて溶けてきたら、水を加える
- 上澄みを捨てる
これを2、3回繰り返す。
絵具が乾ききっていない場合は、
水で膠抜き(樹脂抜き)ができます。
- 乾いていない絵皿に水を注ぐ
- 指でよく混ぜる
- 顔料が沈殿するのを待ち、上澄みだけ捨てる
これを繰り返す
アートグルーを使った筆も溶解剤できれいに!
![](https://nihongago.com/wp-content/uploads/2020/12/brush-3175578_1920-edited-1024x576.jpg)
使い終わった筆は、
通常は水で洗うだけで十分だと感じました。
しかし、気になる方は石鹸や溶解剤を使用しても
良いかと思います。
特に、誤ってアートグルーで筆をカチカチに
固めてしまった場合は、溶解剤を使いましょう!
その後、水洗いで溶解剤を落とすのも忘れずに。
アートグルーの使用感まとめ!
![](https://nihongago.com/wp-content/uploads/2022/01/IMG_0259-1024x562.jpg)
以上、アートグルーを使ってみての感想、
そして膠との違いを紹介してきました。
もう一度、膠との違いを振り返ってみましょう。
- 明るい発色
(膠の黄色が無い) - 筆ムラが少ない耐水性
(アクリル樹脂のため) - カビを防ぎ、腐敗しにくい
(動物性たんぱく質ではないため) - 厚塗りに耐えられる
(湿度等によるひび割れが起きにくい) - つまり膠と混ぜて使えない
- 温度変化に強い
- 増粘剤、溶解剤がある
- 木材、石材、金属に使用可能
- 明礬を混ぜてもドーサにはならない
このような違いがあります。
全体的に膠の弱点を補った展色材という印象を
受けましたが、使用感は結構違う感触です。
もしあなたが興味を持って、購入を検討しているのであれば
絶対におすすめできる画材
ですが、
まずは小さいサイズを購入し、
小作品で試されるのがベストです!
アートグルーの類似商品
アートグルーの姉妹品に、アクアグルーがあります。
水に溶かして使う粉末状の展色材で、
筆者の主観ではアートグルーより人気があるようですね。
24時間水に入れて溶かさなくてはならないので
筆者はまだ購入していません。
アートグルーに関する参考サイト
雅幸画房様日本画生活
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【初心者向け】日本画のドーサ液の引き方、作り方をイラスト付きで解説!
![](https://nihongago.com/wp-content/uploads/2022/01/関連記事はこちら-2.jpg)
![](https://nihongago.com/wp-content/uploads/2022/01/日本画のきじはこちら!.jpg)
![](https://nihongago.com/wp-content/uploads/2022/01/tannseisinan.jpg)