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日本画の最後の仕上げ!「括り、書き起こし、極隈」を実践しよう!

この記事で分かること
  • 狩野派の仕上げは師匠じゃないとできない!
  • 輪郭線を描き加える「くくり」!
  • 線が見えないところは「書き起こし」!
  • 形がしっかりしていないなら「極隈きめぐま」!


「日本画って、立体感が無くて簡単そう!」
「重ね塗りしなくてよさそう!」


と、一見シンプルに見えますよね。


でも実際には、細かい技法と深い知識が必要なんです。


特に狩野派の日本画では、
一番最後の仕上げって、結構大変!

だからどんな絵でも師匠が必ず行います!


この記事では、その重要な仕上げ工程の
くくり」「書き起こし」「極隈きめぐまについて、
詳しく話していきます。


これらをマスターすれば、
日本画の美をより深く理解することができる!

そして自分の作品にも
生かせるようになること間違いなしですよ!

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日本画の仕上げは必ず師匠がやっていた!

あれ?狩野探幽とかが一人で描いていたんじゃないの?

DARENIHO

狩野派の描き方は分業制でした!


狩野家の日本画の彩色作業は、
分業体制によって行われてきました。


全体の制作工程は大きく二つに分けられています。

  1. 門弟が担当する彩色の部分
  2. 師が手がける仕上げの部分

です。

DARENIHO

師とは、社長とか、責任者みたいな、当時の狩野家のTOPです。



描き初めには、師が彩色すべき絵の描線を行います。
これを「素書き」といいます。


その上で、彩色の配合計画を立て、
それを門弟たちに指示します。



その指示通りに門弟たちは彩色を施し、
その作業が終われば再び師のもとに作品を戻します。

狩野派の制作プロセス
  1. 師が素書きをする
  2. 師が彩色計画を立て、指示する
  3. 門弟が彩色を施し、師に作品を戻す
  4. 師が仕上げをする



そして師が最終的な仕上げ、
すなわち「仕立て」を施します。
(この記事では分かりやすいように、仕上げと言います)

ここには、この記事で説明する、
括り」「書き起こし」「極隈」
の三つの加筆が含まれます。


草木の花や葉の彩色は全て門弟たちに任せられますが、
花の筋書きや斑点のような物は全て師が仕上げます。


この分業制のおかげで、狩野派は、
幕府や諸大名からの依頼に応えることができました。

たくさん作品を残せたのも分業制あってのことなんだね!




門弟たちも、彩色の研究を行い、
自身の技術を向上させていました。

DARENIHO

彩色技術は才能じゃなく、努力で誰でも上手くなる」という門弟の言葉も残っているんですよ!



これが狩野家で守られてきた、
日本画の彩色と仕上げの伝統的な工程です。


狩野派の絵は師と門弟たちが協力し、
互いの役割を果たしていたからこそ完成しているんですね!



次の章では師が最後に行った仕上げについて
詳しく解説していきます!

輪郭線は外側に!「括り」とは?

輪郭を外側にしないと小さく見えて迫力がなくなるよ

狩野派の日本画においての重要な仕上げ。

その一つが「括り」です。


狩野派では、どんな絵でも彩色の順序は決まっていました。

  1. 塗り付け
  2. 隈取
  3. 括り

この順序で色が塗られていたのです。

最後に行われる「括り」。
これは具体的に何を意味するのでしょうか?

簡単に言うと、素書きに並行して絵具で施す線を「括り」と言います。

「素書きに並行」ってどういう意味?


これは、
素書きした線の外側に輪郭線を引く
と言う意味だと思われます。


通常、下書きの上から輪郭線を書くと言うと、
漫画の「ペン入れ」を想像するでしょう。


そこでは、下書きの線の上に重ねて
ペンで線を引いていますよね。


ですが、それを日本画でやってしまうと、
描いたものが小さくなってしまいます。


そのため、下書きの輪郭線の外側に線を引くのです。


素描の外側に、並行して線を引くことで、
絵が小さくなるのを防いでいるのです。



括りの応用テクニック&マニアック情報

Kano Hideyori – Emuseum, パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=7878962による


括りをしないで塗りっぱなしにしていると、
つまりほとんど輪郭線がないのと同じことです!

それでは、ぼんやりした絵になっていしまいますよね。

括りで、彩色の周囲を色線で囲うことで
引き締める効果
が出せるんです。


括りは括端てんたん覆輪ふくりんとも呼ばれます。

隣接する部分の彩色の組み合わせが暗いときは、
胡粉ごふん胡粉を混ぜた絵具で括りをするといいでしょう!

暗くなりすぎるときは白を入れる!
分かりやすいね!



具体的な方法は以下にまとめました!

本朝画法大伝による括りのコツ
  • 影が暗い所を括る
  • 胡粉で括るのは明るい箇所
  • 全てを括るのは下品!
    ・影が深い所を括る
    ・薄い所を残す
括りの色を『本朝画法大伝』から抜粋
  • 朱、たん肉色にくしき臙脂具えんじのぐ、黄土、藤黄しおうの具、ちゃの類は生臙脂きえんじで括る
  • 褐と黄とは茶でも括れる
  • 浅葱あさぎは青で括る
  • 緑青ろくしょうは蒼緑か、白緑びゃくろくで括る
  • 紺青こんじょうは群青で括る
  • 臙脂、蒼緑、胡粉は同色で括る

古い色の名前がたくさん出てきましたね。


それぞれの色の作り方や、絵具の使い方は、
この章の最後のリンクからご確認下さい!




さて、括りは、存在しているものの
立体性を引き立てる重要な工程。


日本画の仕上げとして、この「括り」の工程は
非常に重要な役割を果たします。



それぞれの色に適した括り方を理解し、
適切に使うことで、一層の深みと
完成度を作品にもたらすことができたのです。

昔の色/絵具の解説はこちらから!



日本画絵具で線が見えない時ー「書き起こし」(描起こし)をしよう!

線の上から色を塗ったら、線が見えなくなっちゃった!!

DARENIHO

そういう時こそ、「書き起こし」!


「書き起こし」

これは、彩色で絵の具に覆われてしまった線を、
再び見えるようにする作業を指します。


つまり、描いた線が見えなくなった場合に、
それを再び描き出すこと
ですね。


書き起こしは、仕上げ線だけでなく、
色を重ねて描く際にも必要な技法です。

DARENIHO

見えない線を正しく描くには、スゴいデッサン力が要ります!

だから日本画ではデッサン力が重視されてるんだね!



この技法は、特に「つくり絵」でよく使われたそう。


つくり絵とは、大和絵やまとえの技法の一つ。

つくり絵とは?

墨線の下描きの上から、絵具を塗り重ねて彩色を施し、人物の顔などに繊細な墨線を引いて仕上げる絵画手法。



簡単にまとめると、
「源氏物語絵巻」みたいな絵です。


平安時代の風俗画や風景画では、
このような描き方が多く使われました。

源氏物語絵巻


「書き起こし」は、この最終段階、
つまり墨線を引く段階のこと。

これは特に重要な工程です!



絵具による彩色が進むと、
最初に描いた線が絵具に覆われ、
見えなくなってしまいますよね。


その時に、「書き起こし」を行うことで、
最初の線を再度描き出し、
絵画全体の輪郭や細部の形状をハッキリさせます。


絵を描く過程で絵具が重なって線が見えなくなるのは、
よくある事で、苦労しますよね。

しかし、その線を再び見えるようにする
「書き起こし」の技法をマスターすることで、
画作品の完成度をさらに高められますよ!

形がフニャフニャ?それなら「極隈」をやってみよう!


絵を描いていて仕上げたのに、
何かフニャフニャしているから影を足す…

するとエッジが際立って上手くいった!


そういうことってありますよね!

それを昔の人は「極隈」と呼んでいました。

極隈とは、影の濃さが足りず、形が定まっていない部分に、少し濃い絵具を塗って形を補う技法のこと!

デッサンなどで、黒を思い切り乗せられない方は、よくお世話になっている技法でしょう。


昔の人は、例えとして草花を描く時のことを挙げています。



花びらの形がぼんやりしてしまったら

  • 花びらの根元に少し濃い絵具を塗る

と書かれています。


これにより花びらの形をしっかりと成り立ち、
花びらが持つ独自の立体感が引き立てられるのです。


もちろん、草花だけでなく、全てのものに使えます!


絵の具を少し濃くして影を施すことで、
表現が乏しかった部分を補い、
作品全体の完成度を引き上げることができるのです!

ただし、草木の花や葉の彩色については、門弟たちが完成させるのが一般的です。
一方で、花の筋書きや斑点のようなディテールは、師が直接手掛けて完成させます。



極隈は、その一部を強調し
全体の形状を補完するための重要な技法です。


形がフニャフニャと定まらない時は、
ぜひ「極隈」の技法を試してみてください!

まとめー日本画の最後の仕上げ!「括り、書き起こし、極隈」を実践しよう!


最後までお読み頂きありがとうございます!


さて、日本画の仕上げ工程
「括り」「書き起こし」「極隈」について、
いかがだったでしょうか。


これらは、美しい日本画を描く上で
欠かせない要素です。

  • 「括り」で、色線を使って彩色の周囲を引き締める。
  • 「書き起こし」で、絵具で見えなくなった線を再度描き出す。
  • 「極隈」で、ふわっとした形をしっかりと描き出す。


これらの技法を身につけることで、
皆さんの作品もより深みが出ててくることと思います!


もちろん、これらの技法は一度でマスターできません。

書込みが必要な部分に気づかない事もあるでしょう。

しかし、しっかりと練習を重ねれば、
絶対に描けるようになります!


これからも日本画の奥深さを探求して、
自分の表現力を伸ばしていきましょうね!

狩野派の日本画の仕上げを現代語で読もう!

狩野永徳唐獅子図
狩野永徳 – [1], パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=4210868による

ここからは狩野派の隈取の方法について原文で見てみましょう!



こちらの原書は『丹青指南』という絵の描き方の本です。

原書を読むにはどうすればいいの?


そんな時は国立国会図書館のサイトでチェック!

全文を無料で読むことが出来ます!


また、正確な訳や詳しい図解が欲しい!
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括、書起、極隈

「括り」「描き起こし」「極め隈」
の三つの加筆は、
どんな絵でも彩色の最後の仕立てとして
必ず施すべき加筆です。


これをひとつずつ説明することは
大変難しいことですが、一通りの手順を次に記します。



まずどのような絵でも、彩色を施す順序は決まっています。


最初に「塗りつけ」、次に「隈取り」、
その後に素書きに並行して絵具で施す線を
「括り」と言います。


また塗りつぶした素描の線を絵具でなぞって
見えなくするのを「描き起こし」と言います。


その他草木の花などを描く時に、
花びらごとの隈取が、まだ花びらの形を
しっかりと成り立たせておらず、
花の姿かたちがやや乏しいものには、

花びらの根元にのみ、やや色濃い絵具を
塗ります。


その根元にのみやや色濃い絵の具を塗って、
少し隈取り、その姿勢を補うものです。
これを極め隈といいます。


その他全ての図柄でも、
一部もしくは全部の隈取りが薄弱なところは、
花びらに施したように
少し濃い絵の具を塗って、
少し隈にしたのを全て極め隈といいます。


(草木の花、葉の彩色は全て門人で完成しますが、
花の筋書き及び斑点のようなものは
全て師の仕立てで完成するものです)



加筆修正版はこちら!

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