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日本画の盛上げ胡粉(腐れ胡粉)の作り方を解説!ー『丹青指南』を現代語訳

こんな人におすすめ!
  • 日本画の表面を盛り上げたい人
  • 新しい質感表現を模索している絵描きさん
  • 新しいことを学ぶのが好きな絵描きさん


こんにちは、日本画家の深町聡美です。


皆さんは美術館で、絵の表面が盛り上がっている
日本画
を見た事がないでしょうか?


日本画でも油絵やアクリル画のように、
ボコボコとした質感を出すことができるのです。



盛り上げ用のペーストなど、やり方は様々ですが
最も基本と言えるのが「盛り上げ胡粉」です。



今回は、明治時代の日本画の技法書
「丹青指南」に描かれた、
盛り上げ胡粉の作り方を
現代語訳して分かりやすく解説
いたします!

丹青指南のまとめ記事はこちら!

盛り上げ胡粉の「胡粉」とは何?どんなもの?

胡粉

胡粉とは日本画で使う白い絵の具です。

「ごふん」と読みます。

日本画の絵の具は天然鉱石を砕いた物が多いですが、胡粉は貝殻を砕いた絵の具です。


ちょっとイメージしにくい人は


貝殻をコンクリートに擦り付けるとどうなるか
想像してみてください。




・・・・・・そうですね、
貝殻が削れてチョークで線を引いたように
コンクリートが白くなりますね。




胡粉とは、この白い粉末のような物なのです。

あのサプリも胡粉!?
胡粉について詳しくなりたいあなたには
こちらもおすすめ!

▶︎【日本画】胡粉の作り方とは?塗り方、使い方を解説!【丹青指南現代語訳】◀︎

日本画の盛り上げ胡粉(腐れ胡粉)とは何?胡粉とどう違うの?

盛り上げ胡粉とは一体何なのでしょうか?
普通の胡粉とはどう違うのでしょう?


・・・・・・
とても簡単に言うと

盛り上げ胡粉とは、
絵の表面をエンボス加工のように
盛上げるための絵の具!






盛り上げ胡粉を使うと、どんな風に盛り上がるのか?

と聞かれた時に、イメージしやすいのは
エンボス加工だと思います。

文字や形だけがボコッと盛り上がっている感じですね。


さっきの説明では、
胡粉は「白い絵の具」なんでしょ?
ボコッと盛り上がる白絵の具ってなに?



確かに、ただ白い絵の具だと思うと
イメージし辛いかもですね。


しかし、胡粉は貝殻の粉末!
自然の不思議!

普通の胡粉に少し手を加えるだけで
何故かエンボス加工のように立体的にすることが
できるのです。


この記事は『丹青指南』を現代語訳した
記事です。

『丹青指南』では「盛り上げ胡粉」を
「起き上げ胡粉」と表記していますが、
これは今で言う「腐れ胡粉」を指します。

そのため、この記事での「盛り上げ胡粉」は
「腐れ胡粉」を意味します。

まぎらわしくて申し訳ありませんが、
丹青指南の表記に合わせるため御了承下さい。

盛り上げ胡粉(腐れ胡粉)は日本画のどこに使われているの?

さて、そんな盛り上げ胡粉。

どんな所に使われているかというと、

有名なのは狩野派が描いた、桜などの花弁です。




また、高い所に飾ってあって見づらいですが、

神社に飾ってある巨大な絵馬でも多用されています!




元々は仏教の教えを描いた美術品で
使われていた技法なので、
仏画でもよく見られますね。



神社の絵馬



古い絵の場合は、剥がれてしまっていることが
多いのですが、白く削れたような線や
模様が見えれば、

盛り上げ胡粉の痕跡かもしれません。




また、仏教美術の展示は、博物館だけでなく
お寺で開催されることも!?


もし、そんな情報をGETしたら、
「これ、盛り上げ胡粉が剥がれた跡かな?」

と、見に行ってみて下さい!




現代の日本画では、
表面を凹凸にする表現や、模様の部分
多用されます。

日本画で盛り上げ胡粉(腐れ胡粉)を自分で作れないと?

絵の表面を盛り上げるための画材は盛り上げ胡粉
以外にも、いくつかあります。


特に「花胡粉」と言う胡粉は安価で手に入りやすく
よく使われています。

花胡粉とは?
通常の胡粉は粒子が細かく、均一です。
そのため白く澄んだ発色が生まれます。

つまり、
「通常の胡粉」=白絵の具
とお考えください。

しかし
【粒子が細かく均一=ツルツル】なので
胡粉同士はくっつき難いのです。

なので、胡粉を重ねていくと剥離するということが
起きてしまうのです。



・・・・・・・




逆に花胡粉は粒子が不揃いです。
そのため通常の胡粉と比べて、少しくすんだ白です。

安価で大量に販売されていることから
下地材として使われることが多いですね。

ジェッソ的なものだと考えて差し支えないでしょう。


花胡粉は粒子が不揃いなので、
通常の胡粉と比較すると、剥がれにくい絵の具です。

【注】画像ミス: ×盛り上げ胡粉 ○花胡粉




ですが、この花胡粉には残念な点も。

盛り上げるようとすると、乾いた後に
中央がへこみます。


さらに通常の胡粉ほどではありませんが、
剥離しやすいのです。



なので、

花胡粉で盛り上げる!
⬇︎
中心がへこむ!
⬇︎
重ねて綺麗にするぞ!
⬇︎
失敗!またへこむ!
⬇︎
繰り返しているうちにボロボロ剥がれる!


ということになるかも!?



ですがご安心ください!

そうならないための盛り上げ胡粉です。

日本画で盛り上げ胡粉(腐れ胡粉)を自分で作るメリットとは?

盛り上げ胡粉は花胡粉を使った時と比べ、

真ん中がへこみません!

花胡粉ではクレーターのようにへこむことも
あります。


しかし、盛り上げ胡粉ではそのようなことは
ありませんでした。



さらにメリットとして、盛り上げ胡粉は
剥落しにくいと言われています。

盛り上げ胡粉(腐れ胡粉)作りで必要な物は?

必要なもの
  • 安い胡粉
  • 胡粉を練るための乳棒、乳鉢、膠、水など
  • 丹(に・たん。赤い岩絵具)
  • 壺や瓶

安い胡粉

上羽絵惣白狐印の胡粉であれば「白雪」など
ランクの低い胡粉を使いましょう。

個人的には 上羽絵惣 雪印の
花胡粉がおすすめです。

丹(に・たん)

引用:絵具屋三吉オンラインストア

赤い顔料です。
通常の日本画絵具と同じく画材屋さんで
15g単位で販売されています。


日本画に使う顔料。膠などメディウムと合わせて使います。

丹とは、古くから神社の鳥居の塗装にも使われた顔料です。腐敗や虫を防ぐ効果もあったことも、塗装に用いられた理由の一つだったようです。日本画の世界では、堅牢な下地絵具として使われているようです。

引用:丹の説明/絵具屋三吉

壺や瓶

盛り上げ胡粉を作る際には
あえて腐らせるという驚きの行程があります。


密閉できて壊れにくい、水気に強い物がベスト!

口がしっかり閉じる瓶などがいいでしょう。

盛り上げ胡粉(腐れ胡粉)の作り方ー丹青指南による起き上げ胡粉

朱鷺(引用:新潟県 HP

まずは下準備。

膠を溶かして胡粉を練りましょう!



胡粉を乳鉢に入れる際に、
丹を「朱鷺の羽色かそれより赤いくらい」
になるように加えます。


要するにサーモンピンクくらいですね。


それを非常に丁寧に擦りつぶして混ぜてください。

膠の溶かし方と胡粉の練り方は以下の記事を
ご参照くださいね!

▶︎【日本画】膠(にかわ)とは?作り方と使い方&種類を徹底解説【画材】◀︎

▶︎【日本画】胡粉の作り方とは?塗り方、使い方を解説!【丹青指南現代語訳】◀︎




練り終わった胡粉は瓶や壺に移して密封します。



そしてそのまま放置します!!


すると胡粉の中の膠分は徐々に腐敗します。


最終的には乾いて固まってしまいます。


これが、完全な盛り上げ胡粉(腐れ胡粉)です!



こうなると、数年間放置しておいても
決して変質することはないそうです。

盛り上げ胡粉(腐れ胡粉)の使い方

カチカチじゃ胡粉を使えないじゃん!


そうなんですよね。

出来上がったのはカチカチの胡粉。
このままでは使えません。



そこで、今からは
出来上がった盛り上げ胡粉の溶き方
をお話します。

  1. 必要な分量を乳鉢に入れて丁寧にすり潰す。
    (木槌で砕くのがオススメ!)
  2. 通常の胡粉作りと同じように練る。
  3. 運筆が自由にできる程度に濃厚に水で溶く。
  4. 絵具皿に取り分ける。
  5. 膠を注いで使う。

基本的に、
「改めて胡粉をいつも通り溶く」
という感じですね。

いつも通りって何!?と言う方は
こちらをご覧下さい!↓




この溶き方に、

  • 濃いめに溶いて
  • 膠を足す

が加わるだけです。

描く場所が広すぎない限りは、
大抵はこの起き上げ胡粉を一回施すだけで充分!


その後は、盛り上げの形を整える加筆をして完成です。

盛り上げ胡粉の代用になる物はあるの?

? 疑問

でも胡粉を腐らせるとか汚くない?
他の物で盛り上げられないの?



確かに、胡粉を腐らせるなんて
ギョッとしますよね!

ですがこの胡粉以外にも、
盛り上げられる画日本画材はあるんです!

花胡粉

盛り上げ胡粉より剥離しやすく、
中心がへこみやすいですが、
花胡粉だけでも盛り上げられます!



盛り上げる時は濃いめに溶いて
胡粉水を溜めるように
線を置き(引き)ます。

盛り上げ軽石

こちらは岩絵具版の盛り上げ絵の具!

胡粉と違い、ツブツブと荒い粒子です。

岩絵具なので粒子の荒さも選べますから、
胡粉特有の
「ふんわり、やさしい〜」
ではなく、
「ゴツゴツ!荒々しい!」雰囲気に
表面をボコボコさせたい時にオススメです。

筆者は好きです。


しかし砂状の質感になりますので、
滲みやすくなる点には要注意!


抵抗がなければ使用後はドーサなどの
滲み留めを塗るのがいいですよ。

アートペースト

こちらは顔料と混ぜることで、
絵の具自体をペースト状にすることができます。

アクリル画のモデリングペーストが
近いのではないでしょうか。



使用時は膠ではなく製造会社が同じ画材である
アートグルー・アクアグルー
使うと良いかもしれません。




※こちら筆者は未使用ですので
ご自身でお調べになった上でご購入下さい。

姉妹品 アートグルーのレビューはこちら!

【日本画】アートグルーの使い方と使用感をレビュー!

盛り上げ胡粉

一生懸命手間をかけて腐らせた盛り上げ胡粉。
実は普通に売っています。

花胡粉のように大量に入っていますので、
一度購入すれば長く使えます。


使い方は上述の通り。
膠と混ぜて練り、濃いめに溶いて、
少し膠を加えるだけです。

まとめー盛り上げ胡粉(腐れ胡粉)の作り方

盛り上げ胡粉とはエンボス加工のように
立体的に膨らむ画材
でしたね。


作り方は意外と簡単!

  1. 安い胡粉に丹を入れてサーモンピンクにする。
  2. 練る。
  3. 瓶に入れて固まるまで放置。
  4. それを砕いてすり潰す。
  5. 練る。
  6. 濃いめに溶いて膠を足す



まとめるとたったの6工程!


これだけで、絵の表面をふっくらと盛り上げる
スゴイ画材が作れてしまうのです!!



盛り上げ胡粉は日本画だけでなく、
アクリル絵の具とも併用できます!

ぜひ自分だけの新しい表現を見つけてみて下さいね!!




次の章からは
明治時代に書かれた狩野派の技法書
「丹青指南」を忠実に現代語訳しています。

国会図書館の原文と一緒にお楽しみください!

丹青指南の盛り上げ胡粉(腐れ胡粉)を作る上での参考サイト・参考文献

丹青指南を現代語訳して盛り上げ胡粉を作る際に
参考にしたサイトや本の一覧です!

実験画像など参考になりますので
ぜひご覧下さい!

TamaHari@air -Eing-さん
盛り上げ色々-比較してみました-

丹青指南現代語訳ー盛り上げ胡粉(腐れ胡粉)の作り方

狩野永徳唐獅子図

狩野派の技法書「丹青指南」現代語訳を読む際の注意


ここからは解説の無い現代語訳を
掲載していきます!


趣味の現代語訳になりますので、

前章までの解説と合わせて
概要を掴むだけに利用してください。



原文はこちらの国会図書館から全て見る事できます。

丹青指南ー国立国会図書館

電子書籍&
ペーパーバック発売中!


原文が本で読めるようになりました!

起き上げ胡粉(盛り上げ胡粉)



起き上げ胡粉を作るには、通常「七ツ判」と
呼ばれる、最下等の胡粉を使うものとします。



練るために鉢に入れた胡粉を用意します。





それへ朱鷺の羽色ほどか、それ以上赤くなる程度

丹を混ぜ、最も丁寧に練り砕きます。




膠で練るなどのやり方は、
全て先に書いた通りなので割愛します。




そして、練った起き上げ胡粉は、
鉢から他の器に移して密閉します。




このときの器には、壺のようなものを使うのが
いいでしょう。




そのまま保管するときは、
中にある胡粉はだんだん腐敗していき、
最終的には乾いて固まってしまいます。




この状態になったものを
「完全な起き上げ胡粉」と呼び、
数年間貯蔵しても決して変質することはありません。





乾燥させず練った状態で、起き上げ胡粉として
使っても差し支えありませんが、
一旦乾燥させたものには及びません。




以上の固まった起き上げ胡粉を溶くには、

まず所用の分量を鉢に取り分けて、
丁寧にすり潰し、そしてそれを練られるほどの
膠を入れて、さらによく練ります。


その胡粉に、膠が十分に浸透したら、
水で溶き下ろし

これを絵具皿に取り分けて
さらに膠を注いで使います。




そしてこの胡粉の溶き方は
通常の胡粉を溶く時よりも、やや濃厚に溶きます。

とはいえ運筆が自由にできる程度の粘度が
いいですね。



描く場所が広すぎない限りは、
大抵はこの起き上げ胡粉一回で十分です。





そのあとは起き上げを整える加筆をして完成です。


起き上げる部分が広大であるときも、
大抵は2回起き上げ胡粉を重ねれば完成します。



そして乾いた後には、
中央にへこんだ所ができるような欠点が
極めて少ないだけでなく、

簡単に剥奪することもありません。


画像ミス:×盛り上げ胡粉 ○花胡粉


この起き上げ胡粉の作り方を知らないで、
たんに花胡粉などを膠で練ったものを使って
描いた起き上げは、乾くに従って、
中央に大きなへこみ
ができて当然なのです。




なので、これを補おうとして、
花胡粉を何回も重ねてしまいますと、
その出来は粗末になるだけでなく
最も剥落しやすい起き上げとなってしまうのです。


なので、完全な起き上げを描こうとするときには、
この作り方を会得して施すのが一番です。

前の記事はこちら!

ポスターカラーとアクリルガッシュの違いが分からないと…【絵の具について】

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金色を絵の具の混色で作る方法とは?オススメの金色絵の具も紹介!