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蘇芳とはどんな色?由来は木か花か調べました!【日本の伝統色】

こんにちは、日本画家の深町聡美です。

蘇芳色って読めない…どんな色なの?


知ってるとカッコいい日本の伝統色!


でも漢字が読めなかったり
どんな色かイメージできなかったりしますよね。


今回は
蘇芳色(すおういろ)
をテーマに、

  • 蘇芳色は高貴な色
  • 由来は木の色素
  • 漢字の意味
  • 蘇芳絵具の作り方


について解説していきます!

DARENIHO

色の由来や歴史をたどれば、色の名前も簡単に覚えられますよ!



蘇芳色ってどんな色?

読み方すおう
16進数#94474B
RGB(148,71,75)
マンセル値4R 4/7
参考:JIS(日本工業規格)の慣用色名


蘇芳は少し暗い赤紫色です。


8~9世紀ごろの律令制の中では
身分によって使える色が決まっており、
蘇芳も高貴な身分にしか許されない色でした。


また、天皇しか着られない絶対禁色である
黄櫨染(こうろぜん)はハギと蘇芳で染めた色です。


蘇芳は高貴な色だったんだね!



蘇芳色は血の色でもあった!?

UnsplashChaozzy Linが撮影した写真


高貴な色と言われる一方で、
蘇芳色は血の色とも言われていました。



今昔物語 第27巻 第10話では、
怪物が残した乾きかけの血を
「蘇芳色」と表現しています。


確かに染料の色は血のような赤黒さ。


ですが、
血の色とは古来から生命力を表します。


漢方では蘇芳は蘇木(そぼく)と呼ばれ
止血、鎮痛剤の薬とされているそうです。


また、仏具の染料としても使われており、
決して縁起が悪い色とは考えられていないようです。

今昔物語の第29巻第4話では
謎めいた大金持ちの衣服の色として登場します。

平安時代の物語にも登場している色なんだね!



蘇芳色の色言葉、誕生日色は?

pixabay

蘇芳色は11/19の誕生日色のひとつとされています。


蘇芳色の色言葉は
現在は定義されていないようですが、

近い色であるクリムソンは
「 経験・才能・行動力」
臙脂色は
「支持・向上心・弾力的」
という色言葉があります。


蘇芳色は花じゃなくて木から採れる赤!

蘇芳色は木の芯材から採れる!

蘇芳の一種と思われる木
UnsplashRejaul Karimが撮影した写真

蘇芳は
インド東南アジアのマメ科の小高木(sappan)
から採れる染料
です。

蘇芳の木は平たい豆がなります。

よく似た赤系色である朱や岱赭と異なり
砂や鉱物のような顔料ではなく染料です。

この鮮やかな赤は、蘇芳の木の
芯材に含まれる色素「ブラジレイン」
(ブラジリン)
によるもの。


蘇芳の木を椿やヒサカキなどの灰汁を
媒染にして布や木を染めると
美しい濃い赤紫色になるのです。


ミョウバンを媒染にすると鮮やかな赤になり
こちらを赤蘇芳と呼びます。

豆の木と布をぐつぐつ煮たら蘇芳色に染まるんだ!

DARENIHO

褪色しやすい色としても有名です。

⇒気になる方はこのサイトで染め方をチェック!

蘇芳はいつから輸入されたの?

上述のように古くから尊い色として
使われてきた染料で、
飛鳥時代から輸入が始まりました。

蘇芳の木は日本で育たないので
あの鑑真も中国から持ち帰ったと言います。

蘇芳色って花蘇芳の色じゃないの?

ハナズオウの木
Hands off my tags! Michael GaidaによるPixabayからの画像

蘇芳色って花蘇芳の色じゃなかったんだ?

DARENIHO

蘇芳色の花だから、「花蘇芳」なんです!



おなじマメ科の木に
「花蘇芳」(Cercis chinensis)があります。


そのため蘇芳色の語源は花蘇芳と思われがちですが、

蘇芳色が先なんです!



花蘇芳は江戸初期に渡来した中国原産の木。
蘇芳の木の方が1000年近く前に渡来しています。

日本人にとって高貴な色である蘇芳色


その色の花を咲かせるので「花蘇芳」
名づけられたのです。

蘇芳という漢字の意味は?

蘇芳ってかっこいい漢字だよね!
この漢字には意味があるの?


「蘇芳」はマレー語のsapang(サパン)に
中国語の音を当てた言葉です。


そのため漢字の意味は
重視されていなかった
と思われます!



サパン(マレー語)⇒スーファン(中国語)⇒スオウ(日本語)
と、音を表すための名称だったのです。


しかしながら
「蘇木」として血止めの薬になっているあたり、
赤色と「蘇」の漢字をかけて
「よみがえりの薬」と考えることも
あったのかも知れませんね。

DARENIHO

「蘇」という字には苔やシソの意味があるようです。



日本画で蘇芳色を使おう!

顔料のイメージ
Rudy and Peter SkitteriansによるPixabayからの画像


日本画でも蘇芳色の絵具を使います!

古くは「キエンジ」とも呼ばれたようで、

この絵具は蘇芳の煎じ汁に、胡粉を混ぜて、
弱火にかけて極限まで煮詰めたものである。

と書かれています。


ここでは「丹青指南」という
日本画の古い指南書を訳して、
蘇芳色の絵具の作り方を探りました!

DARENIHO

実際に蘇芳の絵具を作ろうとしたら大変なようです!

⇒東京藝術大学が蘇芳の絵具で彫刻を復元!

大正時代にはすでに失われた絵具だったみたい!

①蘇芳を煮だす

まずは蘇芳の木片をお湯に入れて
ぐつぐつ煮出します。



東京藝術大学の実験では
蘇芳の粉末を蒸留水に入れて加熱しています。

②煎じ汁に胡粉を混ぜて煮詰める


十分煎じた物を濾過し、
煮汁に胡粉を混ぜます。

それをさらに弱火にかけ
極限まで煮詰めます。

③絵皿で溶かして使おう!


絵皿での溶かし方は
黄土と同じ方法でOK!

  1. 細かく砕く
  2. 膠を入れて練る
  3. 水を加える
  4. 筆にとって使う

以上の手順になります!


または粉状にした物を貯めて置き、
使用の度、を練る方法で使うのも良いとされています。

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蘇芳はどんな場面で使われていたの?

漆工芸
umehanayuukiによるPixabayからの画像

蘇芳ってどんな場面で使われる絵具なの?


蘇芳は染料ですので、主に

  • 衣類
  • 木材

染めるのに使われます。

参考:美術図書出版紫紅社

現在はスカーフや漆工芸制作で使われています。


狩野派では顔料(絵具)として
大和絵専用に使っています。

特に

  • 女官や人物の服

に使っていたという記録が残っています。


鈍色に使う時には朱土
混ぜて使っていたんだとか。

染物のほかに、絵でも使われていたんだね!

まとめー蘇芳とはどんな色?


最後までお読み頂きありがとうございます!

以上が蘇芳色の由来や歴史、
絵具の作り方でした!

  • 蘇芳色は木から採れる赤色!
  • 花蘇芳の語源は蘇芳色から!
  • 蘇芳色の絵具を作るのは大変!


ということが分かりましたね!


皆さんも木をぐつぐつ煮出して
じゃぶじゃぶ布を入れて、
蘇芳染めに挑戦してみて下さい!



筆者もやったら追記します!



それでは最後に
日本画の古い(けど知らないとヤバい)
技法書を現代語訳して終わろうと思います!

丹青指南現代語訳

狩野永徳唐獅子図
狩野永徳 – [1], パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=4210868による
DARENIHO

詳しい&正確な情報が欲しい方は
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をご覧下さい!

原文は国会図書館のHPで無料で見られます!

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原文が本で読めるようになりました!

一、キエンジ

この絵具は蘇芳の煎じ汁に、胡粉を混ぜて、
弱火にかけて極限まで煮詰めたものである。

なので使わず時間が経つと退色する。


猪口の中に溶かす時は、
丹または黄土と同じ方法でよい。

または粉状にした物を貯めて置き、
使用の度、朱を練る方法で使うのも良い。


この「キエンジ」は狩野家では
大和絵専用の絵具として、
女官および大和人物の服装に使い、
そして鈍色(灰色?法衣?)には
少しの朱土を混ぜて使っていた。

この「キエンジ」の有無について
絵具商に尋ねたところ、
今は使う人がいないために、皆無であった。

この間、その筋からお尋ねがあったが、
納品できなかったとのこと。

参考リスト
花蘇芳の語源について
蘇芳色/wikipedia
蘇芳の英語表記について
JIS慣用色名16進数
禁色/wikipedia
蘇芳染めについて
木工と蘇芳染め
蘇芳色の壁紙!
新装版日本画画材と技法の秘伝集
日本画用語事典


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