8/1 新刊『日本画の絵具と色彩』発売されました!

なぜ日本画には面倒な決まりが多いのか?それは日本の神社仏閣を守るためでもあった!

この記事で分かること
  • 昔の絵が鮮やかに残っているのは技術が伝達されていたからこそ!
  • 絵を描く上で大切な事とは?!
  • 長持ちする絵を描くには絵具の知識が大事!


こんにちは、日本画家の深町聡美です。



日本画を描いていると、時々遭遇してしまうのが
「絵具や胡粉の剥落」です。



胡粉の場合、その原因は主に二つ!

  • 胡粉全体に膠が染み込んでいなかった
  • 胡粉を何層も塗り重ね過ぎた

ですね。


そして岩絵具の場合だと、

  • 表面の絵具だけが乾いて、内側の絵具が湿っている

と言う理由で剥落することがあります。

これはドライヤーを使った時などに多い現象ですね。



また、

  • 和紙に裏打ちをしなかった

のも原因になります。

和紙が水気で波打ってしまい絵具が剥落するのです。

しかしこれらの失敗には
もっと根本的な理由がありました!



その理由を、前回の記事から引き続き、
解説していきます!

日本画の精神を、狩野派の技法書「丹青指南」を現代語訳して解説!



丹青指南のまとめは画像をタップ!

狩野派による日本画解説書「丹青指南」を現代語訳



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なぜ絵具や胡粉が剥落してしまうのか?その原因は?

日本画が剥落する根本的な原因って何なの?




日本画の虎の巻である「丹青指南」では、

胡粉や絵具の剥落について、こう述べられています。

仮令描法は、熟達して穏健なるも、
其絵は彩色剥脱の非難をまぬかれがたし、

畢竟するに、是等の失敗は暗に彩色は
容易のわざにして、胡粉の如きは、膠にて、

単に煉擦して、足るものと軽視して、
精確なる、絵画に施すべき絵具の溶融法および、
其使用方法を等閑にしたる過失といふも、

決して過言に非ざるべし

少し難しい言い回しなので

現代語訳をしてみました。


例え描き方が熟練していて作品に安心感があっても、

その絵は、絵の具がはがれ落ちることでの
非難をまぬがれることはできません。


結局のところ、それらの失敗は、
絵画に施すべき精確な絵の具の溶かし方や、
その使用方法をおろそかにしている事
原因だと言っても決して過言ではありません。

暗に、制作者が彩色をするのは簡単な事だと、
胡粉などは膠で単にこねるだけで十分なものだと
軽視しているから失敗するのです



つまり、絵具や胡粉が剥落してしまうのは、
正しい絵の具の溶かし方や、使用方法を理解していないことが原因とされています。




絵具を塗る、盛る、の段階ではなく、

溶かす(膠と混ぜる)時点での方法が大切と言うことなのです。

「きちんと混ぜなきゃ!」という真摯な姿勢が良い作品になるんだね!

絵具や胡粉が剥落しなくなると、日本文化が守られる!



絵具や胡粉が剥落しないことでメリットがあるのはあなたや、あなたの作品、あなたのお客様だけではありません!

日本の文化を守る事にも繋がっているのです。

「どういうこと?」

と思った方は以下の引用をご覧下さい。

~されば若し至尊の宮殿、又は神社仏閣等に於ける、装飾画の如き彩色を施こすとすれば、其家系によりて法式ある、精細なる、絵具の融溶方および其使用方法を知らざれば右等の建築物に対し、完全なる、着色を施し行ふこと、極めて難かるべし

こちらもまた、訳文を載せておきます。

宮中や、神社仏閣などで、装飾画のような色を付けることになった場合、その流派によって定められた精細な絵の具の溶かし方や、その使用方法を知らなければ、それらの建築物に完璧に着色を施すことは極めて難しいでしょう。



例えば日光東照宮のような昔の神社。


その社殿に飾り付けられている三猿や
様々な動物等の彫刻は、

作られた当初は大変カラフルだったと言われています。



しかし、長い時間によって色が落ち、
今の褪せたような色合いになっています。



原型をとどめている内に、元のように塗り直して
昔の姿を残しておいたり、
その修復方法を次の世代に受け継ぐ必要があるのです。



そうしなければ、昔の日本人が長く残してきた
着色技術が失われてしまうのです。


ピラミッドやモアイ像の作り方のように。


そうは言っても、ペンキで上から塗ってしまっては
技術の継承も出来ませんし、なにより見た目が良くないですよね。



そこで大切になるのが、上述した絵具の正しい使い方とそれによる長期の保存です。


つまり、
皆さんの作品を長く留めるだけでは無く、
数百年後に皆さんの作品を修復するような時もこの技術は必要になります。

一人ひとりが正しい絵の具の使い方と、剥落しない技術を持つことで、
日本や世界に宝物が一つ 残されていくのです。


まとめ:なぜ日本画には面倒な決まりが多いのか?それは日本の神社仏閣を守るためでもあった!

撮影:DARENIHO

最後までお読み頂きありがとうございます!

以上、『丹青指南』を紐解き、
絵具が剥落してしまう根本的な原因をまとめました。

  • 絵具の溶かし方をちゃんと行うと、長持ちする絵が描ける
  • 絵や日本の文化を守るためにも塗り方を正しく知る必要がある


ということですね!

結局正しい塗り方ってなに?


という方は、当ブログの丹青指南カテゴリの記事をぜひご覧下さい!


また、当ブログの現代語訳はkindleでもご覧いただけます。


原文の雰囲気に忠実かつ誰でも読み易い文章になっております〇

狩野派の技術を現代語訳で読もう!

狩野永徳唐獅子図
狩野永徳 – [1], パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=4210868による

ちゃんど原文を読むにはどうすればいいの?


そんな時は国立国会図書館のサイトでチェック!

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丹青指南現代語訳ー緒言

一.近世または現在の有名な画家が描いた室内絵や、公の場所に飾られている色付きの絵が、その完成当時から、まだ少ししか経過していないのにも関わらず、胡粉が所々はがれ落ちてしまい、せっかくの美しい見た目を損なっている。

このような不満を所持者から聞く事がある。

それは全て、作者の不注意によって生じたミスであって、例え描き方が熟練していて作品に安心感があっても、その絵は、絵具の剥落による非難をまぬがれないだろう。


結局のところ、それらの失敗は、絵画に施すべき精確な絵具の溶かし方や、その使用方法をおろそかにしている事が原因だと言っても決して過言ではない。

暗に、彩色をするのは簡単な事だと、胡粉などは膠で単にこねるだけで十分なものだと、軽視しているから失敗するのだ。

宮中や、神社仏閣などで、装飾画の彩色をする場合、その流派によって定められた精細な絵の具の溶かし方や、その使用方法を知らなければ、それらの建築物に完璧に着色を施すことは極めて難しいだろう。


それに対して、徳川氏のお抱え絵師である狩野家に入って学んだ者たちは、初めに絵具の溶き方とその使用方法を会得したその後、彩色を学んでいた。
学ぶ順序を絵所で決められていたのである。


ゆえに、どんな絵の具であっても、一度試し描きするときには、その絵の具の良し悪しはもちろん、使用難易度までもすぐに分かってしまう。


この本は現在彩色絵を志す画学生に対し、完全な彩色法を授ける事だけが目的ではない。

現在神社仏閣に残っている装飾画への、彩色をする上での真実を教えるために、徳川氏の絵所で経験した胡粉の練り方はもちろん、全ての絵具の溶き方を網羅して、隠すことなく明言している。


そして、一は画学生に絵の真理をさとらせ、一はわが国が持つ彩色画の尊い決まりをとどめておくための楔とするため、この本を作ったのである。


日本画の技法書「丹青指南」に関する参考サイトなど

・国立国会図書館デジタルコレクション

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・CiNii図書

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