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鬼滅の刃の元ネタ-横山大観の日本画「生々流転」について解説

こんにちは、日本画家の深町聡美です。

今や知らない人はいないほど人気の「鬼滅の刃」

特に主人公の竈門炭治郎は
老若男女問わず大人気のキャラクターですね。




では、その炭治郎の代表的な必殺技。
「生生流転」と、ある日本画
共通点があることはご存知でしょうか?

今回は、鬼滅の刃に登場する
「水の呼吸 拾の型:生生流転」
と共通点がある日本画を解説します!





先に書いておきますが、
この「生生流転」のネタは、
少しマニアックな内容です!



それゆえに、美術好きさんや、
鬼滅好きさんも詳しくは知らない話題かも
しれません。


勉強熱心な皆さんは、ここで得た情報を
「明日使える豆知識」として学校や会社で
自慢してみて下さいね!

話題作りのお供に、
ぜひ最後までお楽しみください!

鬼滅の刃「生生流転」とは?-横山大観の日本画「生々流転」が鍵!

鬼滅の刃に詳しくない人も、

水の龍を従えた竈門炭治郎のイラストや
フィギュアを見たことがあるのではないでしょうか?


それが竈門炭治郎の
「水の呼吸 拾ノ型 生生流転」です!

この「拾ノ型 生生流転」は、
炭治郎たちが使う「水の呼吸」という剣術の中で、
最後に習得できる、
「水の呼吸」最強のワザとされています。



「水の呼吸」の技は斬撃が水流をまとうように
表現されていますが、

最後の剣技である「生生流転」は、
さらに水龍までが現れ、大きなうねりとなって
鬼に喰らいかかる必殺技です。




このように、

「拾ノ型 生生流転」は

が印象的な技として描かれています。


実は、「拾ノ型 生生流転」と同じく

が印象的であり、

さらにタイトルまで「生々流転」


加えて、ある奇跡的なエピソードまで持っている

日本画の巻物が存在しているのです!


鬼滅の刃の元ネタ-横山大観の日本画「生々流転」とは?

Yokoyama Taikan, died in 1958 – Museum book, パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=24996157による

それがこの作品、

横山大観先生「生々流転」です。

国指定文化財等データベース


まずは絵の紹介をする上で必須となる、
基本の情報からお話します。




横山大観

「生々流転」

55.3×4070cm

1923年(大正12年)

重要文化財

東京国立近代美術館


 「生々流転」は
日本画の祖、横山大観先生による作品で、
現在は重要文化財となっています。




大観先生は日本史の教科書にも載っているので、
皆さんご存知かも知れませんね。




「横山大観?だれ?」という方も、

この絵を見ればピンと来るはず!


Yokoyama Taikan – Catalogue, パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=23553430による



「生々流転」は、有名な「無我」と
作者が一緒なのです。



で、「生々流転」の基本情報をよく見てください。



長さの部分に注目です。




……わかりましたか?


何とこの作品、

長さが40mもあるんです!

筆者も初めは4070「mm」の間違いかと
思いました。



この長さのために
展示会場では一部分のみが展示され、

図録でも一部の抜粋か、
見開き2ページにぎゅうぎゅう詰め込んだ

小さい写真のみ掲載されていることも。

 



「それで、この長い絵のどこが
鬼滅の刃と似ているの?」

と言う声が聞こえてきそうですが、
ここからが本題です。




さて、この長い絵には何が描かれているのでしょうか?

鬼滅の刃の元ネタ-横山大観の日本画「生々流転」は水の一生を描いた絵

大観先生の「生々流転」には一体なにが
描かれているのか?


その答えは「水の一生」です!


「山で水が生まれ、川から海になり、

やがて空へ還り、雨として山へ……」

つまり『生々流転』する様子です。

せいせい-るてん【生生流転】

すべての物は絶えず生まれては変化し、移り変わっていくこと。

https://dictionary.goo.ne.jp/word/%E7%94%9F%E7%94%9F%E6%B5%81%E8%BB%A2/


さてさて山からはじまる水の一生はどうなるのか!?

そして最後に待っているのは!?




というわけで、

具体的に作品を解説していきましょう!

雲と山

引用:歴史を築いた日本の巨匠 (No.1)横山大観/美術年鑑社 p.52

雲の中に静かな山の姿が浮かびます。


よく見ると、山には鹿らしき動物の姿もあります。



人間の一生で例えると

人間で言うと生まれたての
赤ちゃんのような感じでしょうか。

人のエゴに縛られず、野生動物のように
のびのびとした様子を思い起こさせます。

湧水

引用:歴史を築いた日本の巨匠 (No.1)横山大観/美術年鑑社 p.53

雲に包まれた山肌から水が湧き出し、
川となって流れ出しました。

近くには人も住んでいるようです。


牛が薪らしき物を運んでいるのが見えますね。



人間の一生で例えると

先の人間の例えで言うなら、
人間としての知性や自我が湧き出てきた頃でしょうか。

山の中

Yokoyama Taikan, died in 1958 – Museum book, パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=24996157による

水は、傾斜の激しい山の中を
荒々しく飛沫をあげて流れていきます。



木々も乱立していますし、険しい雰囲気ですね。

人の一生であれば、アグレッシブな若者を
想起させます。

人間の一生で例えると

ちらほら人間が描かれていますが、
岩肌の雰囲気も相まって寛容さや
余裕は感じられません。

中流

引用:歴史を築いた日本の巨匠 (No.1)横山大観/美術年鑑社 p.53

険しい雰囲気から一変。
緩やかな流れになります。


川辺には馬を牽く人物や船も見えますね。

船や灯籠の存在が、
人々の生活圏内であることを示しています。


人間の一生で例えると

自分一人に当たっていたフォーカスが、
他の人にも当てられるようになったかのようで
山中の景色より余裕を感じます。

もう少し語る

山肌と木々ばかりの狭い景色から
打って変わって、川幅の拡がりを感じる
白く開けた画面になります。

「黒くて狭い」から、「白くて広い」へ
変えることで、川の雄大さを強調する
効果があると考えます。

下流

引用:歴史を築いた日本の巨匠 (No.1)横山大観/美術年鑑社 p.55

ちいさな家々と共に、
上流の木々とは異なる木が見えます。

また、岩も峻厳としたものではなく、
丸みを帯びています。


川の波は見えず穏やかで、
画面上には雨らしき墨の流れがあります。

人間の一生で例えると

描かれた村の景色は、社会での生活の
メタファーのようにも見えます。

河口

引用:歴史を築いた日本の巨匠 (No.1)横山大観/美術年鑑社 p.54

下流の小さな村を抜けると
大きな街に着きました。

立派な石垣や橋が見えますね。




木々の様子も変わっているのが
わかるでしょうか?


上流では一種類だった木は、
松や紅葉、柳と、人間が好みそうなものへと
変化しています。


人間の一生で例えると

村を自分の周りの社会と捉えるなら、
大きな街は、国や人類など、
より広いスケールへの関心と言えるかもしれません。


栄えている様子からは、エゴイスティックな
さもしさは感じられず、
社会貢献による精神的充足感さえも
感じさせます。

引用:歴史を築いた日本の巨匠 (No.1)横山大観/美術年鑑社 p.55

浜辺へ引き揚げる船を見届けると、
先にあるのはポツンと鳥居が立つ小島だけ。


手前にある岩では鵜が海を眺めています。

高波そして龍

引用:歴史を築いた日本の巨匠 (No.1)横山大観/美術年鑑社 p.54

静かだった波は徐々に高くなり、
墨の効果でまるで嵐のようにも見えます。


波のうねりは大きく、荒々しい飛沫を上げます。

ついには大波となって海面になだれ落ち、

その勢いで舞い上がる波飛沫の間からは

龍が空に昇っていきました。







……以上が「生々流転」の物語です。

鬼滅の刃の元ネタ、横山大観の日本画「生々流転」まとめ

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竈門炭治郎が使う「水の呼吸」の剣技。

その最強ワザ「拾の型 生生流転」

剣にまとう水の龍が印象的なワザでした。



そして横山大観先生の日本画「生々流転」

の一生を描き、大波から生まれた
その最後を飾りました。



以上のことから、この龍こそが、
「拾の型 生生流転」に現れる水の龍のモデル
と言っても過言ではないのではないでしょうか。

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鬼滅の刃の元ネタ、横山大観の生々流転の奇跡とは?

前章で「拾の型 生生流転」
「生々流転」の話は終わりましたが、

最後に大観先生の「生々流転」の奇跡を
お話しします。




この「生々流転」が初めて世に出たのは、

1923年(大正12年)9月1日。
上野公園竹之台陳列館で開かれた、
第10回院展という展覧会でのことでした。




そしてこの日、歴史的なある災害が起こります。

それは関東大震災。



いまや、日本トップレベルとなった
すごい展覧会に出品された「生々流転」は、

展示からわずか半日後に被災してしまったのです。

(この日の東京藝術大学は
「生々流転」の話題で持ちきりだったとか)




関東大震災は多くの人命と、
貴重な文化財が焼失した
痛ましい震災だったはずです。



しかし、「生々流転」は奇跡的に震災を
生き延び、

10/31 -11/2に大阪商品陳列館で再開された
第10回院展で展示されました。


そして、現在では重要文化財として
大事に保管されています。





ちなみに一気呵成に描くことが多かった
大観先生ですが、この作品は

「構想に、構図に、表現に、描画手法に、
推敲に推敲を重ね、工夫に工夫を重ねて
当ったもの」


なのだそう。


だからこそ、

  • 水の一生というスケールの巨大さ
  • そこに重なる人間の一生
  • 雄大な自然の大きさ

をここまで表すことができたのです。

鬼滅の刃の元ネタ、横山大観の日本画「生々流転」参考書籍など

日本美術全集/学研

歴史を築いた日本の巨匠 (No.1) (歴史を築いた日本の巨匠 1) 大型本 – 1985/8/1

国指定文化財等データベース






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