こんにちは、日本画家の深町聡美です。
今や知らない人はいないほど人気の「鬼滅の刃」
特に主人公の竈門炭治郎は
老若男女問わず大人気のキャラクターですね。
では、その炭治郎の代表的な必殺技。
「生生流転」と、ある日本画に
共通点があることはご存知でしょうか?
今回は、鬼滅の刃に登場する
「水の呼吸 拾の型:生生流転」
と共通点がある日本画を解説します!
先に書いておきますが、
この「生生流転」のネタは、
少しマニアックな内容です!
それゆえに、美術好きさんや、
鬼滅好きさんも詳しくは知らない話題かも
しれません。
勉強熱心な皆さんは、ここで得た情報を
「明日使える豆知識」として学校や会社で
自慢してみて下さいね!
話題作りのお供に、
ぜひ最後までお楽しみください!
Contents
鬼滅の刃「生生流転」とは?-横山大観の日本画「生々流転」が鍵!
鬼滅の刃に詳しくない人も、
水の龍を従えた竈門炭治郎のイラストや
フィギュアを見たことがあるのではないでしょうか?
それが竈門炭治郎の
「水の呼吸 拾ノ型 生生流転」です!
この「拾ノ型 生生流転」は、
炭治郎たちが使う「水の呼吸」という剣術の中で、
最後に習得できる、
「水の呼吸」最強のワザとされています。
「水の呼吸」の技は斬撃が水流をまとうように
表現されていますが、
最後の剣技である「生生流転」は、
さらに水龍までが現れ、大きなうねりとなって
鬼に喰らいかかる必殺技です。
このように、
「拾ノ型 生生流転」は
- 水
- 龍
が印象的な技として描かれています。
実は、「拾ノ型 生生流転」と同じく
- 水
- 龍
が印象的であり、
さらにタイトルまで「生々流転」。
加えて、ある奇跡的なエピソードまで持っている
日本画の巻物が存在しているのです!
鬼滅の刃の元ネタ-横山大観の日本画「生々流転」とは?
![](https://nihongago.com/wp-content/uploads/2021/10/Yokoyama-Metempsycosis-1024x216.jpg)
それがこの作品、
横山大観先生の「生々流転」です。
まずは絵の紹介をする上で必須となる、
基本の情報からお話します。
横山大観
「生々流転」
55.3×4070cm
1923年(大正12年)
重要文化財
東京国立近代美術館
「生々流転」は
日本画の祖、横山大観先生による作品で、
現在は重要文化財となっています。
大観先生は日本史の教科書にも載っているので、
皆さんご存知かも知れませんね。
「横山大観?だれ?」という方も、
この絵を見ればピンと来るはず!
![](https://nihongago.com/wp-content/uploads/2021/10/Yokoyama_Muga-625x1024.jpg)
「生々流転」は、有名な「無我」と
作者が一緒なのです。
で、「生々流転」の基本情報をよく見てください。
長さの部分に注目です。
……わかりましたか?
何とこの作品、
長さが40mもあるんです!
筆者も初めは4070「mm」の間違いかと
思いました。
この長さのために
展示会場では一部分のみが展示され、
図録でも一部の抜粋か、
見開き2ページにぎゅうぎゅう詰め込んだ
小さい写真のみ掲載されていることも。
「それで、この長い絵のどこが
鬼滅の刃と似ているの?」
と言う声が聞こえてきそうですが、
ここからが本題です。
さて、この長い絵には何が描かれているのでしょうか?
鬼滅の刃の元ネタ-横山大観の日本画「生々流転」は水の一生を描いた絵
![](https://nihongago.com/wp-content/uploads/2021/10/cascade-g267454c72_1920-1024x682.jpg)
大観先生の「生々流転」には一体なにが
描かれているのか?
その答えは「水の一生」です!
「山で水が生まれ、川から海になり、
やがて空へ還り、雨として山へ……」
つまり『生々流転』する様子です。
せいせい-るてん【生生流転】
すべての物は絶えず生まれては変化し、移り変わっていくこと。
https://dictionary.goo.ne.jp/word/%E7%94%9F%E7%94%9F%E6%B5%81%E8%BB%A2/
さてさて山からはじまる水の一生はどうなるのか!?
そして最後に待っているのは!?
というわけで、
具体的に作品を解説していきましょう!
雲と山
![](https://nihongago.com/wp-content/uploads/2021/10/IMG_8896-1024x532.jpg)
雲の中に静かな山の姿が浮かびます。
よく見ると、山には鹿らしき動物の姿もあります。
人間の一生で例えると
人間で言うと生まれたての
赤ちゃんのような感じでしょうか。
人のエゴに縛られず、野生動物のように
のびのびとした様子を思い起こさせます。
湧水
![](https://nihongago.com/wp-content/uploads/2021/10/IMG_8897-1024x570.jpg)
雲に包まれた山肌から水が湧き出し、
川となって流れ出しました。
近くには人も住んでいるようです。
牛が薪らしき物を運んでいるのが見えますね。
人間の一生で例えると
先の人間の例えで言うなら、
人間としての知性や自我が湧き出てきた頃でしょうか。
山の中
![](https://nihongago.com/wp-content/uploads/2021/10/Yokoyama-Metempsycosis-1024x216.jpg)
水は、傾斜の激しい山の中を
荒々しく飛沫をあげて流れていきます。
木々も乱立していますし、険しい雰囲気ですね。
人の一生であれば、アグレッシブな若者を
想起させます。
人間の一生で例えると
ちらほら人間が描かれていますが、
岩肌の雰囲気も相まって寛容さや
余裕は感じられません。
中流
![](https://nihongago.com/wp-content/uploads/2021/10/IMG_8899-1024x514.jpg)
険しい雰囲気から一変。
緩やかな流れになります。
川辺には馬を牽く人物や船も見えますね。
船や灯籠の存在が、
人々の生活圏内であることを示しています。
人間の一生で例えると
自分一人に当たっていたフォーカスが、
他の人にも当てられるようになったかのようで
山中の景色より余裕を感じます。
もう少し語る
山肌と木々ばかりの狭い景色から
打って変わって、川幅の拡がりを感じる
白く開けた画面になります。
「黒くて狭い」から、「白くて広い」へ
変えることで、川の雄大さを強調する
効果があると考えます。
下流
![](https://nihongago.com/wp-content/uploads/2021/10/IMG_8900-1024x530.jpg)
ちいさな家々と共に、
上流の木々とは異なる木が見えます。
また、岩も峻厳としたものではなく、
丸みを帯びています。
川の波は見えず穏やかで、
画面上には雨らしき墨の流れがあります。
人間の一生で例えると
描かれた村の景色は、社会での生活の
メタファーのようにも見えます。
河口
![](https://nihongago.com/wp-content/uploads/2021/10/IMG_8901-1024x497.jpg)
下流の小さな村を抜けると
大きな街に着きました。
立派な石垣や橋が見えますね。
木々の様子も変わっているのが
わかるでしょうか?
上流では一種類だった木は、
松や紅葉、柳と、人間が好みそうなものへと
変化しています。
人間の一生で例えると
村を自分の周りの社会と捉えるなら、
大きな街は、国や人類など、
より広いスケールへの関心と言えるかもしれません。
栄えている様子からは、エゴイスティックな
さもしさは感じられず、
社会貢献による精神的充足感さえも
感じさせます。
海
![](https://nihongago.com/wp-content/uploads/2021/10/IMG_8902-1024x544.jpg)
浜辺へ引き揚げる船を見届けると、
先にあるのはポツンと鳥居が立つ小島だけ。
手前にある岩では鵜が海を眺めています。
高波そして龍
![](https://nihongago.com/wp-content/uploads/2021/10/IMG_8904-1024x489.jpg)
静かだった波は徐々に高くなり、
墨の効果でまるで嵐のようにも見えます。
波のうねりは大きく、荒々しい飛沫を上げます。
ついには大波となって海面になだれ落ち、
その勢いで舞い上がる波飛沫の間からは
龍が空に昇っていきました。
……以上が「生々流転」の物語です。
鬼滅の刃の元ネタ、横山大観の日本画「生々流転」まとめ
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竈門炭治郎が使う「水の呼吸」の剣技。
その最強ワザ「拾の型 生生流転」は
剣にまとう水の龍が印象的なワザでした。
そして横山大観先生の日本画「生々流転」は
水の一生を描き、大波から生まれた龍が
その最後を飾りました。
以上のことから、この龍こそが、
「拾の型 生生流転」に現れる水の龍のモデル
と言っても過言ではないのではないでしょうか。
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鬼滅の刃の元ネタ、横山大観の生々流転の奇跡とは?
![](https://nihongago.com/wp-content/uploads/2021/10/Yamasha181026052_TP_V-1024x681.jpg)
前章で「拾の型 生生流転」と
「生々流転」の話は終わりましたが、
最後に大観先生の「生々流転」の奇跡を
お話しします。
この「生々流転」が初めて世に出たのは、
1923年(大正12年)9月1日。
上野公園竹之台陳列館で開かれた、
第10回院展という展覧会でのことでした。
そしてこの日、歴史的なある災害が起こります。
それは関東大震災。
いまや、日本トップレベルとなった
すごい展覧会に出品された「生々流転」は、
展示からわずか半日後に被災してしまったのです。
(この日の東京藝術大学は
「生々流転」の話題で持ちきりだったとか)
関東大震災は多くの人命と、
貴重な文化財が焼失した
痛ましい震災だったはずです。
しかし、「生々流転」は奇跡的に震災を
生き延び、
10/31 -11/2に大阪商品陳列館で再開された
第10回院展で展示されました。
そして、現在では重要文化財として
大事に保管されています。
ちなみに一気呵成に描くことが多かった
大観先生ですが、この作品は
「構想に、構図に、表現に、描画手法に、
推敲に推敲を重ね、工夫に工夫を重ねて
当ったもの」
なのだそう。
だからこそ、
- 水の一生というスケールの巨大さ
- そこに重なる人間の一生
- 雄大な自然の大きさ
をここまで表すことができたのです。
鬼滅の刃の元ネタ、横山大観の日本画「生々流転」参考書籍など
日本美術全集/学研
歴史を築いた日本の巨匠 (No.1) (歴史を築いた日本の巨匠 1) 大型本 – 1985/8/1
引用画像、引用動画については
以下のサイトを参考にしています。
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