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臙脂色の意味とは?由来は中国って本当?【日本の伝統色】

こんにちは、日本画家の深町聡美です。

皆さんは「臙脂色」って読めますか?

正解は「えんじいろ!」


でも読みにくいし、見慣れない漢字ですよね。


今回は「臙脂色」の語源や由来を中心に、
「本物の臙脂」「偽物の臙脂」についても
ご紹介します!

こんな人にオススメ!

  • 臙脂色のカラーコードやマンセル値を確認したい
  • 臙脂色ってダサくない?
  • 臙脂色の由来は?
  • 臙脂色って何の色なの?


➡︎日本画の臙脂色を解説!ー絵具は昔、綿だった!?




臙脂色とはどんな色?

和名読み方えんじ
カラーコード#AD3140
RGB(173, 49,64)
マンセル値4.5R 4.0/10.0

臙脂色は「わずかに紫みのふかい赤」
と表記される色です。


燕支、燕脂、烟子等とも書きます。

1954-55年の調査では女性の好きな色の上位
臙脂色が入っていました。


現在ではその人気は鮮やかな赤に代わられていますが、
起業や政治家のイメージカラーにおいて
非常に人気があります!


歴史が古く、人気も高い色なんだね!


臙脂色のイメージは情熱的であり知性的!

堅実、伝統、知性、情熱

早稲田大学
https://www.photo-ac.com/main/detail/23746003#goog_rewarded



臙脂色には
堅実、伝統、知性、情熱のイメージがあります。



赤系の色ですが日本古来の色でもあり、
明度が低い落ち着いた色です。


そのため知性を感じさせつつも
情熱、熱意
をイメージさせられます。


また、伝統的な安心感、堅実性のイメージもあります。

日本では早稲田大学のイメージカラーにも使われているよ!

高貴


また、臙脂色には高貴さのイメージもあります。


臙脂色の原料である紅花から採れる紅は、
作るのに手間がかかる上、褪色が激しい色でした。

そのため高貴な人しか着用できなかったのです。


古代中国で使われた臙脂の化粧品も
身分が高い人しか使えないものでした。

身分の高い人しか着られない色だったんだ!


血、活力

赤全般のイメージとして
血、活力のイメージもありますよね。

実際、紅花には血行を良くする効果があり、
婦人病系の漢方薬にも使われています。

赤のイメージは?

赤全般のイメージとして、
血、活力、命、情熱、戦争などが挙げられます。

赤系の絵具は土や草、虫など広い材料から入手できたため、
様々な用途で使われました。

そのため、良いも悪いも多くのイメージが
付いたと考えられています。


臙脂色の意味、由来は?

UnsplashDiego Jimenezが撮影した写真

臙脂色って変わった漢字だね。
どんな意味があるの?

DARENIHO

それは中国の地名です!



臙脂色の原料は三種あると言われています。


そのうちの一つであり、
「正しい臙脂」と言われるのが、
紅花から作られたもの!


そしてこの紅花の一大産地が、
中国の燕支山(臙脂山)だったのです!


えんし‐ざん【燕支山・臙脂山】
中国甘粛省蘭州の張掖東南にある山。匈奴の地にあって、武帝の時、霍去病(かくきょへい)の河西征討で知られる。

燕支山|コトバンク
DARENIHO

藤田豊八という人が「史記」の記述を元に考えた説です。


産地の名前が色名になることはよくあることで、

  • 辰砂(しんしゃ)=China
  • 岱赭(たいしゃ)=代州

と同じ語源なんですね。

DARENIHO

「バーントシェンナ」の「シェンナ」もイタリアのシエナが由来の色名だよ。

DARENIHO

現代中国語では臙脂を胭脂と書きますが、これは口紅や頬紅を意味しています。


臙脂の由来は燕国じゃないの!?

臙脂の由来は燕支山じゃなくて燕国らしいけど…?

DARENIHO

その説に否定的な意見もあります。


馬縞が書いた『中華古今注』では
「紀元前2世紀の燕国が臙脂を作ったから臙脂」
と書かれています。

殷の紂王の時代から,ベニバナの汁を凝縮させて燕脂をつくることがはじまり,燕国から脂が産出するので燕脂という。

臙脂の再現に向けて


ですが、

  • 他の歴史文書には
    燕国周辺で臙脂を作っていた記録がないこと
  • 中国の様々なことを解説した『古今注』
    「燕支」の項に書かれていないこと



から、一部では否定されています。



そのため現在支持されているのは
臙脂山の説だと言えます。


臙脂は元々化粧品のこと!
現代中国語で臙脂が頬紅を意味するように、
臙脂は元々化粧品として使われました。

紀元前2世紀ごろに中国にもたらされ、
高貴な身分の女性が化粧品として
使ったと言います。


臙脂色の絵具の原料は?

「正しい臙脂」?
じゃあ、偽物もあるの?

DARENIHO

偽物ではないですが、臙脂色の絵具の原料は、三種類あると言われています!


臙脂色の絵具は原料や作り方で
三種類に分類されます。

DARENIHO

色が三種類ではなく、絵具の原料が三種類です。


虫製の臙脂

カイガラムシの一種
Sandeep HandaによるPixabayからの画像


インド、ミャンマーなどに生息するラックカイガラムシ

この原料の臙脂を「生臙脂(キエンジ)」といいます。


ラックカイガラムシを水やアルコールに浸して
色を抽出し、円形の綿に浸した、
綿状の絵具でした。

虫!?気持ち悪いよ!


と思うかもですが、
ラックカイガラムシは、かつては三大益虫と言われました。

工業製品に利用できる樹脂を分泌できたからです。


意外と身近な所に虫の成分が使われているんですね。



さて、この生臙脂ですが、
日本には奈良時代ごろから輸入されていました!
※7世紀説アリ

特に中国の江蘇省揚州産のものが高品質です。



円盤状の綿に染み込ませているのは
運送に適していたためです。


千年以上も前から使われてきたんだね!

コチニールカイガラムシとは違うの?

カイガラムシから採れる色と言えば、
カーマインがあります。

こちらの赤は南米の「コチニールカイガラムシ」
が持つ「コチニール色素」によるものです。

一方のラックカイガラムシは
「ラック色素」という別の色素を持ち、
コチニールよりも青みがある赤をしています。



紅花の臙脂

紅花
Julio César GarcíaによるPixabayからの画像
DARENIHO

これが「正しい臙脂」、正臙脂(ショウエンジ)です。


紅花から色素を抽出して作った臙脂。
それが「正臙脂(ショウエンジ)」です。



残念なことに現在では作り方が伝わっておらず、
古代の文献を元に研究が進められています。


紅花なのに黄色いよ!


これは紅花が赤と黄色の色素を持っているため。

以下の手順で赤い色素を抽出します。


  1. 紅花を水に浸して黄色の色素
    「サフラワーイエロー」を除去する
  2. 藁灰の灰汁で赤色の色素「カルタミン」を抽出
  3. ②に米酢や梅酢(烏梅)を入れる


こうすると
赤い色素が顔料化(塊化)して沈殿します。


これが本来の臙脂なので正臙脂と言います。


DARENIHO

紅花が中国の呉から日本に来たから「呉藍=くれない」と呼びました。




ただ、古代の臙脂が紅花によるものかは
はっきりしていません。



紫草やオトギリソウという話もありました。


蘇芳の臙脂

ハナズオウの木
Hands off my tags! Michael GaidaによるPixabayからの画像



蘇芳にミョウバンを入れた赤蘇芳も
江戸時代は臙脂の一種類とされていました。




狩野派の絵画技法を書く『丹青指南』では
蘇芳に胡粉を入れて煮詰めた物
「キエンジ(原文ママ)」として紹介しています。




また、江戸時代の農学者、
貝原益軒による『大和本草』にも
「蘇芳の煎じ汁に胡粉を混ぜて綿に塗った物」
「生エンジ(原文ママ)」と書かれています。



キエンジ二つめ!?



しかし『大和本草』では、これは偽物であり、
本来はオトギリソウであったとしています。

DARENIHO

でも、オトギリソウ説が正しいとは限りません。


まとめー臙脂色の意味とは?由来は中国って本当?【日本の伝統色】


最後までお読み頂きありがとうございます!

以上が臙脂色の意味や由来、
臙脂色の絵具の原料の紹介でした!


最後の方は少し難しかったかもしれません。


ですが

  • 歴史が古い絵具だからこそ、
    由来も作り方もたくさん考えられた。
  • 人々はキレイな赤色を作ろうと
    色々な材料で実験してきた。


    のではないでしょうか?



というわけで、皆さんもぜひ
臙脂色づくりの謎に挑戦してみて下さい!


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参考
ラック染め
ラック色素の色について
コチニールとラックの違い
臙脂の語源
臙脂の語源その2
シエナについて
臙脂復活計画
日本画用語事典
日本画画材と技法の秘伝集
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・日本色彩事典(絶版)
色の名前はどこからきたか
色の名前で読み解く日本史





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